海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2015-06-27から1日間の記事一覧

「はいつくばって慈悲を乞え」ロジャー・スミス

最近の翻訳ものとしてはタイトルと装丁が秀逸。 内容はもっと凄い。出だしからノワールの雰囲気全開で、南アフリカのケープタウンという馴染みのない街を舞台に、屈指した犯罪者たちの狂宴が繰り広げられる。 無慈悲な暴力の描写は執拗でサディスティック。…

「ブラック・アイス」マイクル・コナリー

デビュー作を読んだのは、もう随分前だ。 三人称でありながらも、常に主人公の行動を追い、彼の視点で描写するため、読んでいる最中でも、一人称のストーリーと錯覚する。 作者は、ヒーローの孤独をより際立たせるために、内面描写を出来るだけ避けるスタイ…

「ひきがえるの夜」マイクル・コリンズ

隻腕の私立探偵ダン・フォーチューンは孤独だ。ロス・マクのリュー・アーチャーも孤独な探偵だが、既に己自身をも達観する境地にいるアーチャーは孤独であることも、またひとつの誇りであるかのように行動する。だが、フォーチューンの孤独っぷりは、なんと…

「殺しあい」ドナルド・E・ウェストレイク

殺しあいが展開されるのは終盤の僅か二章のみ。しかし、これが凄まじい。凡庸なミステリーが一気にハードな活劇へと昇華する。ラスト三行の余韻も素晴らしい。 埋もれたままにしておくには勿体無いウエストレイクの傑作ノワール。 評価 ★★★★★ 殺しあい (1977…

「テロリスト」マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー

味わい深い大人のための警察小説。 主人公ベックをはじめ、登場人物すべてに無駄がなく、それぞれの人生に思いを馳せることができる。 愛情の込もった訳者あとがきも素晴らしい。 評価 ★★★★ テロリスト (角川文庫) 作者: マイ・シューヴァル,ペール・ヴァー…

「少年の荒野」ジェレマイア・ヒーリイ

地味なハードボイルドだが、真摯に謎を追う探偵の姿勢に好感が持てる。亡くした妻の墓参りのシーンが印象的。 評価 ★★★ 少年の荒野―私立探偵ジョン・カディ (ハヤカワ ポケット ミステリ) 作者: ジェレマイアヒーリイ,中川剛 出版社/メーカー: 早川書房 発売…

「硝煙に消える」ジョージ・P・ペレケーノス

この作家、初読。 随所に光る部分はあるものの、主人公の行き当たりばったりな行動に共感できなかった。結局、何がしたかったのか。友人を無茶な取り引きに巻き込み、死なせておいて感傷に耽られる感覚が分からない。謎解きも唐突で違和感がある。ハードボイ…

「殺す警官」サイモン・カーニック

荒削りながらも筆力があり、サスペンスの盛り上げ方が巧い。いわゆる悪徳警官物だが、正義感に溢れている割には、悪党どもの手のひらで意図も簡単に転がされ、挙句は自らの手で死体の山を築いていくという、ブラックユーモア的な面白さがあった。しかし、よ…

「ラスコの死角」リチャード・N・パタースン

パタースンのデビュー作。ロス・マクドナルドを継ぐと評されたが、これはストイックに事実を追い求める主人公の言動を指してのものだろう。 政府高官も絡めた実業家の悪巧みを暴くプロットは、やや弱いが、社会派ミステリーとしての完成度は高い。 未読のパ…

「魔のプール」ロス・マクドナルド

リュウ・アーチャーシリーズ第2作。ギャルトン事件以降の静謐で透明な文体、人間の業を見つめる厳しくも優しい眼、狂言回しとしてひたすらに悲劇的な家族の有り様と向かい合い続けた、孤独な私立探偵アーチャー。この作品では、僅か最終章にのみ、円熟期の傑…

「闇に消える 」ジョゼフ・ハンセン

デイブ・ブランドステッター第1作。 同性愛者の絡む事件を、同性愛者である保険会社調査員が追うという、当時としては斬新な設定ながら、ネオ・ハードボイルドの新鋭として好評を得ていた。全作品が翻訳されるという栄誉を授かっていることからも、安定した…

「007/ロシアから愛をこめて」イアン・フレミング

ジェイムズ・ボンド第5作。ド派手な映画とは違い、発端から結末までじっくりと描いており、前半のソ連情報部の長いパートにボンドは登場しない。特に一匹狼の殺し屋には力を入れている。ラストでは、あっさりとやられてしまい、殺し屋の狂気が巧く生かせてい…

「男の首 黄色い犬」ジョルジュ・シムノン

シムノンの真の魅力を識るには、読者自身が成熟した大人であることが必須なのであろう。 男の首に登場し、深い余韻を残す犯罪者の見事な心理描写は、現代のミステリー作家が束になっても敵わないに違いない。 不公平な貧困とブルジョワへの憤怒、余命僅かな…

「ネオン・レイン」ジェイムズ・リー・バーク

中盤までは快調。風景や人物描写、社会的背景と小道具などに文学出身者らしいこだわりを感じる。臨場感あるアクションも、ハードボイルドとして合格点だろう。主人公ロビショーも骨のある好漢で良い感じだ。だが、プロットが弱い。ハードボイルドに謎解きな…

「チャイルド44 」トム・ロブ・スミス

序盤から終盤まで、凄まじい緊張と焦燥を読者に強いる。スターリンの恐怖政治の実像を、本書のみに頼るのは危険だが、恐るべき筆力で疾走するストーリー展開は、娯楽小説としての真髄を見せ付けてくれる。とはいえ、描かれているのは、この世の地獄巡りだが……

「グラーグ57」トム・ロブ・スミス

前作の興奮冷めやまぬまま、続編を読了。エネルギーに満ち溢れた著者の才気を存分に感じる力作だ。この作品でも、主人公レオをはじめ登場人物全てが極限的状況下で生死を彷徨う。大半は悲惨な死を遂げることになるが、お涙頂戴的な甘さを一切排しており、彼…

「血の流れるままに」イアン・ランキン

読み終えて、どうもすっきりしないのは、やはりカタルシスが不足しているからだろう。ド派手なカーチェイスによる幕開けと謎の呈示は期待を持たせたが、その後の展開は淡々としてサスペンスに欠ける。決着の内容も妥協であり、権力の不正を暴き、トドメをさ…

「血のケープタウン」ロジャー・スミス

1日で読了。それほどにスピード感があり、先の読めない展開はスリルに満ちている。文体も簡潔で無駄がない。南アフリカという独自の舞台が、噴出する暴力のリアリティを支えている。 第三作の翻訳はまだか? 評価 ★★★★★ 血のケープタウン(ハヤカワ・ミステリ…

「盤面の敵」エラリイ・クイーン

本格推理小説の傑作を次々と生み出したクイーンも、流石に疲れを見せている。当時としては斬新なはずの犯人の設定も、現在では古めかしく感じざるを得ない。 評価 ★★☆ 盤面の敵 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ク 3-7) 作者: エラリイ・クイーン,青田勝 出版社/メ…

「推定無罪」スコット・トゥロー

いわゆるリーガルサスペンスが量産されるきっかけとなった作品。 一人称の主人公登場シーンでは、のちに自らが裁かれることとなる人物はすでに殺害されており、次第に明らかとなっていく動機や証拠の類いを、読者は物語の進行とともに検証する。ここら辺りの…

「鏡の迷路」ウィリアム・ベイヤー

フランク・ジャネック警部補シリーズ第三作。 結末を読む限り、作者は三部作として終わらせたのだろう。魅力的な主人公だけに残念だ。タイトル通り、鏡の迷路が舞台としても、心理的な表現としても重要なモチーフとなっている。 全てが砕け散っていくラスト…

「獣たちの墓」ローレンス・ブロック

都市の暗流に蠢く敗残者たちの罪と罰を描き続けるスカダーシリーズ。 猟奇的な殺人を繰り返す誘拐犯を追い詰めていく捜査過程こそが本書の読みどころだろう。決着は相変わらず暴力的だが、全体を貫くトーンは明るい。 評価 ★★★ 獣たちの墓―マット・スカダー…

「バースへの帰還」ピーター・ラヴゼイ

随分と評判が良かったので読んでみたが、ミステリとして物足りなさを覚えた。真犯人とおぼしき人物は途中でわかってしまうし、謎解きはオーソドックスで、あまりフェアともいえない。やはり、ガサツな主人公に好感が持てないことが一番の理由か。くせはある…

「シンシナティ・ブルース」ジョナサン・ヴェイリン

ハリイ・ストウナーシリーズ第1作。 物語はいたってシンプルで、ややぎこちない。だが、良質のハードボイルドにしようという作者の意欲は伝わってくる。 自称モラリストの探偵らしく、弱者に向ける視線は優しく、逆に虐げる側への怒りは激しい。 報われる事…

「ラブラバ」エルモア・レナード

小気味好いテンポで進行する軽いタッチのノワール。悪女も悪党も、ちょっと間抜けなところがミソで、結局は破綻する犯罪の顛末にも捻りを加えてある。玄人受けが良いのも納得の作家だ。 評価 ★★★☆ ラブラバ (ハヤカワ・ミステリ文庫) 作者: エルモアレナード…

「夜の熱気の中で」ジョン・ボール

ヴァージル・ティッブスシリーズ第1作。1965年発表にしてMWA最優秀新人賞受賞作。アメリカ南部の黒人差別が色濃く残る田舎で、卑しい偏見を一身に浴びながらも、経験豊かな黒人刑事が殺人事件を鮮やかに解決し、無能な白人の署長らの意識に変革をもたらして…

「ユダの山羊」ロバート・B・パーカー

村上春樹がパーカーのファンだというのも頷ける。どちらも格好つけたスタイルのみで、中身は空っぽだからだ。 家族をテロリストに皆殺しにされて私立探偵を雇う怪しい大富豪という発端からして噴飯物だが、その後の展開はまさに唖然である。ビールと美食、ジ…

「運命」ロス・マクドナルド

リュウ・アーチャーシリーズ長編第7作。チャンドラーに倣った模索期を経て、独自のスタイルを本作の完成と共に築き上げたといっていい。円熟期に繫がる傑作ギャルトン事件は、すぐ後だ。フロイト心理学の影響下で、悲劇的な人間の業の末路を、暗喩を多用した…

「黄金猿の年」コリン・フォーブズ

ドキュメンタリータッチのスリラー。 核爆弾を積み込んだ石油タンカーを舞台に、無駄のないアクションを展開し読ませる。 情感を一切排しており、登場人物への感情移入を許さない。 評価 ★★★ 黄金猿の年 (1981年) (創元推理文庫) 作者: コリン・フォーブズ,…

「結婚式の客」デイヴィッド・ウィルツ

なんともシンプルなタイトルだが、内容はストーリー展開の早いB級スリラー。異常な殺し屋スミスが影の主人公で、この男が描きたいばかりに物語を考えたのだろう。翻訳者の後書きが鋭い。 評価 ★★★☆ 結婚式の客 (新潮文庫) 作者: デイヴィッドウィルツ,高見浩…