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海外ミステリ・レビュー

……新旧の海外ミステリを中心に

サスペンス/スリラー

「理由」ジョン・カッツェンバック

冒頭で引用されたアフォリズムが、本作の全てを表している。 「怪物と闘おうとするものは、自身が怪物にならないように用心すべきである。奈落の底を覗くものは、奈落の底から覗かれるのである」フリードリヒ・ニーチェ 「地獄の道に敷きつめられているのは…

「黒いカーテン」ウィリアム・アイリッシュ

アイリッシュ1941年の作品。極めてモダンなスリラーであり、濃密なサスペンスを堪能できる。 会社帰りに崩れ落ちてきた瓦礫を身体に受け、意識不明の状態から回復した男。名は、フランク・タウンゼント。ようやく家へと帰り着くが、今朝、男を見送ったはずの…

「殺す警官」サイモン・カーニック

荒削りながらも筆力があり、サスペンスの盛り上げ方が巧い。いわゆる悪徳警官物だが、正義感に溢れている割には、悪党どもの手のひらで意図も簡単に転がされ、挙句は自らの手で死体の山を築いていくという、ブラックユーモア的な面白さがあった。しかし、よ…

「ラスコの死角」リチャード・N・パタースン

パタースンのデビュー作。ロス・マクドナルドを継ぐと評されたが、これはストイックに事実を追い求める主人公の言動を指してのものだろう。 政府高官も絡めた実業家の悪巧みを暴くプロットは、やや弱いが、社会派ミステリーとしての完成度は高い。 未読のパ…

「鏡の迷路」ウィリアム・ベイヤー

フランク・ジャネック警部補シリーズ第三作。 結末を読む限り、作者は三部作として終わらせたのだろう。魅力的な主人公だけに残念だ。タイトル通り、鏡の迷路が舞台としても、心理的な表現としても重要なモチーフとなっている。 全てが砕け散っていくラスト…

「結婚式の客」デイヴィッド・ウィルツ

なんともシンプルなタイトルだが、内容はストーリー展開の早いB級スリラー。異常な殺し屋スミスが影の主人公で、この男が描きたいばかりに物語を考えたのだろう。翻訳者の後書きが鋭い。 評価 ★★★☆ 結婚式の客 (新潮文庫) 作者: デイヴィッドウィルツ,高見浩…

「リバー・ソロー」クレイグ・ホールデン

麻薬で身を滅ぼしていく者たちの末路は哀れだ。 謎解きを軸にしたサスペンスに溢れた展開でありながらも、一番印象に残るのは、やはり何もかもをボロボロにぶち壊す麻薬の怖さ、だった。その描写は実にリアルだ。 評価 ★★★ リバー・ソロー (扶桑社ミステリー…

「源にふれろ」ケム・ナン

発表当時、かなり高い評価を得ていた。ケム・ナンは、知る限りでは他の作品が翻訳されていないが、すぐにミステリから離れたということか。デビュー作となる本書も、ミステリというよりもカリフォルニアを舞台にした青春小説で、田舎から姉を捜しにきた青年…

「骨折」ディック・フランシス

派手さはないが、渋い秀作。 一行目からの刺激的独白による開幕は、全シリーズ通しての馴染みのものだが、その後の展開は、一人の甘ったれたガキが、誇り高き主人公との関わり合いの中で、人間として成長していくさまをじっくりと描いていくもので、虚飾を剥…

「殺人症候群」リチャード・ニーリィ

サイコ・サスペンスの先駆的作品。 構成、トリックは充分練り込まれており、主な舞台となる新聞社の様子は作者自身の経験が生かされてリアリテイに富む。ただ、本作の肝となる真相は、早い段階で分かってしまう。しかも、文庫本の解説者が、クイーンの盤面の…

「大座礁」ジェイムズ・W・ホール

マイアミを舞台とするスリラーといえば、カール・ハイアセンの諸書が思い浮かぶが、本書はフロリダの成り立ちと環境問題を絡めつつも、宝を積んだまま座礁した船を巡る悪党どものやりとりを、やや過激な暴力を交えて活写していく。題材はどれも面白いのに、…

「ノンストップ! 」サイモン・カーニック

展開の早いサスペンス・スリラーの秀作。カーニックについては、殺す警官、覗く銃口に続き、3作を読了したことになる。前作までは、不安定だが緊迫感溢れるノワールタッチのプロットと情景描写が魅力だったが、本作ではひたすらスピード感を重視し、錯綜した…

「空白との契約」スタンリイ・エリン

翻訳は硬いが、冷徹な雇われ保険調査員の行動を徹底した客観描写で描く。主人公の感情は他の登場人物を通してしか分からない。狙った報酬も臨時の女性パートナーとの関わりも、ラストでは苦い結末を迎えることとなる。非情に揺らぎが生じていくさまはハード…

「ザ・スイッチ」エルモア・レナード

なんともとらえどころがないが、つい読んでしまう。小悪党らが、本気なのか、冗談なのか、どちらでも取れる言動を繰り返し、誘拐という本来ならシリアスな犯罪の進行がアイロニカルに描き出される。レナードならではの世界、初心者にはハードルが高いだろう…

「誰が為に爆弾は鳴る」トニー・ケンリック

スカイジャックなどのスラップスティックな傑作ミステリを何作も著わしたケンリックが、本作あたりからシリアスな作風へと路線変更し新境地を開拓した。 読んで驚く。これが意外と良いのだ。 止むに止まれず爆弾魔捜しをする元刑事の主人公の言動はハードボ…

「狂犬は眠らない 」ジェイムズ・グレイディ

スパイ映画の秀作コンドルの作者による新機軸のスリラー。 主役は、元スパイで現在はCIA管轄の精神科病院に入院中の5人。なんとか薬の力で正気を保っているが、彼らを担当した新顔の精神科医が病院内で殺され、まず自分たちが疑われることを覚った5人は病院…

「真夏の処刑人」ジョン・カッツェンバック

実力派カッツェンバックの処女作にして傑作。 主人公アンダースンは、スクープに飢えるマイアミ・ジャーナルの社会部記者。ひと夏の悪夢の如き連続殺人事件の顛末を緊迫感溢れるドキュメントタッチで描く。 第一の被害者となる少女惨殺事件の記事をアンダー…

「神と悪魔の遺産」F・ポール・ウィルスン

始末屋ジャック、満を持しての登場だ。 大傑作「ナイトワールド」で一旦終焉したホラーシリーズの中で、ずば抜けて人気の高かった登場人物ジャックを再び主人公にすえての新シリーズ第一弾。飽くなきタフネスはそのままに、現代社会が抱える闇を主題にしたト…

「嘘、そして沈黙」デイヴィッド・マーティン

中途までは典型的なサイコスリラーだが、終盤に至って真相が明らかとなる時点でロス・マクドナルド的な家庭の悲劇へとシフトする。 文章は練られており、異常犯罪者の行動の描写にミスディレクションを仕掛けるなど芸が細かい。嘘発見器と呼ばれる退職間近の…

「沈黙の森」C・J・ボックス

米国のミステリ界では絶賛されたらしいが、どうにも退屈な作品だった。絶滅危機種を題材にした所謂環境保護を大きなテーマとし、私利私欲にまみれた権力者と猟区管理官の主人公の対決を描くのだが、これがなんとも頼りない。娘が事件に巻き込まれ、自宅から…

「女刑事の死」ロス・トーマス

一癖ある登場人物の造型にかけては定評のあるロス・トーマスによる上質のスリラー。ミステリとしては小品ながら、ひとつひとつのエピソードが味わい深く、大人のためのエンターテイメントとして至福のひと時を提供してくれる。 回り道をしながらも、殺された…

「羊たちの沈黙」トマス・ハリス

サイコスリラー隆盛のきっかけとなった記念碑的作品。狂気の犯罪者ハニバル・レクターの特異性のみに着目し過ぎては、本作の優れた点を見落とす。FBIのプロファイリングが連続殺人者をどのように炙り出し、追い詰めていくのか。それを本格的に娯楽小説へと導…

「マンハッタン連続殺人」ウィリアム・カッツ

ウィリアム・カッツらしいB級感たっぷりのサスペンス。若い女性ばかりを狙う連続殺人者はいたって平凡な造型だが、後半で犯人探しに協力する羽目になるというプロットが面白い。 評価 ★★★ マンハッタン連続殺人 (扶桑社ミステリー) 作者: ウィリアムカッツ,…

「ディーケンの戦い」ブライアン・フリーマントル

緻密な構成のプロットに唸る上質のスリラー。冷戦下ソ連の工作員の暗躍により、捨て駒となって滅んでいく元敏腕弁護士ディーケンの悲劇を描く。南アフリカ、イスラエル、ナミビア、サウジアラビアなど各国の荒んだ状況を巧みに織り交ぜながら、反政府組織や…

「暗闇の道」ジョセフ・ヘイズ

たった一冊、本作のみしか翻訳出版されていないのが信じられい位の傑作である。 物語は実にシンプルながらも、登場人物の造型は見事で無駄がない。事件発端からアクション映画の様なクライマックスまで、実質二日間の出来事を緊張感が途切れる事無く、一気に…