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海外ミステリ・レビュー

……新旧の海外ミステリを中心に

ノンジャンル

「誓約」ネルソン・デミル

打ち震える程の感動の中でラストシーンを読み終える。「この小説を書きたかった」と感慨を述べたネルソン・デミル、その積年の想いが伝わる渾身の大作である。本作を書き終えた瞬間の充足感は相当なものだったろう。1985年発表の「誓約」は、1968年3月のソ…

「フリッカー、あるいは映画の魔」

高い評価を得ている作品だが、さほど映画の世界に思い入れのない私にとっては困った代物だった。 本筋を単純化して述べれば、草創期のサイレントから70年代サブカルの隆盛期まで、退廃的ホラーの制作に、十字軍の時代から迫害され続けてきたキリスト教のカル…

「娼婦の時」ジョルジュ・シムノン

冒頭数ページの情景描写は、ひたすらに美しい。パリ郊外。氷雨の降り続く闇を切り裂き疾走する車。放心した状態でハンドルを握る若い男。しばらく田舎道を走り続けた車は山中で故障し、男はやがて古い宿に辿り着く。酒を飲んだ後、男は電話を借りて警察を呼…

「卵をめぐる祖父の戦争」デイヴィッド・ベニオフ

邦題は暗喩なのだろうと漠然と思っていた。だが冒頭を読み進めた段階で、捻りも無く物語をそのままに表したものだと判る。日常から卵が消えた街。つまりは人間社会が存続するために不可欠な家畜などの生き物が失われた世界である。1942年、ナチス・ドイツに…

「きず」アンドニス・サマラキス

ある街のカフェで酒を飲んでいた1人の男が、特高警察に逮捕される。反政府運動組織の人間が、そこで接触するとの密告があったからだ。怪しいやり取りで密会を果たした様子の2人。1人は逃亡中に死亡。あとの1人「〈カフェ・スポーツ〉の男」を捕らえるが…

「大聖堂」ケン・フォレット

ようやく最終章に辿り着き、ある種の幸福感の中で読み終える。 読者は、長い長い道程を登場人物と共に歩き、 年齢を重ね、喜び、哀しみ、怒り、人間としてのあらゆる感情の発露と類稀なる経験を通して、成長し老いていく。この長大な物語を著わしたケン・フ…