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海外ミステリ・レビュー

……新旧の海外ミステリを中心に

「ブラック・アイス」マイクル・コナリー

デビュー作を読んだのは、もう随分前だ。 三人称でありながらも、常に主人公の行動を追い、彼の視点で描写するため、読んでいる最中でも、一人称のストーリーと錯覚する。 作者は、ヒーローの孤独をより際立たせるために、内面描写を出来るだけ避けるスタイ…

「ひきがえるの夜」マイクル・コリンズ

隻腕の私立探偵ダン・フォーチューンは孤独だ。ロス・マクのリュー・アーチャーも孤独な探偵だが、既に己自身をも達観する境地にいるアーチャーは孤独であることも、またひとつの誇りであるかのように行動する。だが、フォーチューンの孤独っぷりは、なんと…

「殺しあい」ドナルド・E・ウェストレイク

殺しあいが展開されるのは終盤の僅か二章のみ。しかし、これが凄まじい。凡庸なミステリーが一気にハードな活劇へと昇華する。ラスト三行の余韻も素晴らしい。 埋もれたままにしておくには勿体無いウエストレイクの傑作ノワール。 評価 ★★★★★ 殺しあい (1977…

「少年の荒野」ジェレマイア・ヒーリイ

地味なハードボイルドだが、真摯に謎を追う探偵の姿勢に好感が持てる。亡くした妻の墓参りのシーンが印象的。 評価 ★★★ 少年の荒野―私立探偵ジョン・カディ (ハヤカワ ポケット ミステリ) 作者: ジェレマイアヒーリイ,中川剛 出版社/メーカー: 早川書房 発売…

「魔のプール」ロス・マクドナルド

リュウ・アーチャーシリーズ第2作。ギャルトン事件以降の静謐で透明な文体、人間の業を見つめる厳しくも優しい眼、狂言回しとしてひたすらに悲劇的な家族の有り様と向かい合い続けた、孤独な私立探偵アーチャー。この作品では、僅か最終章にのみ、円熟期の傑…

「闇に消える 」ジョゼフ・ハンセン

デイブ・ブランドステッター第1作。 同性愛者の絡む事件を、同性愛者である保険会社調査員が追うという、当時としては斬新な設定ながら、ネオ・ハードボイルドの新鋭として好評を得ていた。全作品が翻訳されるという栄誉を授かっていることからも、安定した…

「ネオン・レイン」ジェイムズ・リー・バーク

中盤までは快調。風景や人物描写、社会的背景と小道具などに文学出身者らしいこだわりを感じる。臨場感あるアクションも、ハードボイルドとして合格点だろう。主人公ロビショーも骨のある好漢で良い感じだ。だが、プロットが弱い。ハードボイルドに謎解きな…

「血のケープタウン」ロジャー・スミス

1日で読了。それほどにスピード感があり、先の読めない展開はスリルに満ちている。文体も簡潔で無駄がない。南アフリカという独自の舞台が、噴出する暴力のリアリティを支えている。 第三作の翻訳はまだか? 評価 ★★★★★ 血のケープタウン(ハヤカワ・ミステリ…

「獣たちの墓」ローレンス・ブロック

都市の暗流に蠢く敗残者たちの罪と罰を描き続けるスカダーシリーズ。 猟奇的な殺人を繰り返す誘拐犯を追い詰めていく捜査過程こそが本書の読みどころだろう。決着は相変わらず暴力的だが、全体を貫くトーンは明るい。 評価 ★★★ 獣たちの墓―マット・スカダー…

「シンシナティ・ブルース」ジョナサン・ヴェイリン

ハリイ・ストウナーシリーズ第1作。 物語はいたってシンプルで、ややぎこちない。だが、良質のハードボイルドにしようという作者の意欲は伝わってくる。 自称モラリストの探偵らしく、弱者に向ける視線は優しく、逆に虐げる側への怒りは激しい。 報われる事…

「ラブラバ」エルモア・レナード

小気味好いテンポで進行する軽いタッチのノワール。悪女も悪党も、ちょっと間抜けなところがミソで、結局は破綻する犯罪の顛末にも捻りを加えてある。玄人受けが良いのも納得の作家だ。 評価 ★★★☆ ラブラバ (ハヤカワ・ミステリ文庫) 作者: エルモアレナード…

「ユダの山羊」ロバート・B・パーカー

村上春樹がパーカーのファンだというのも頷ける。どちらも格好つけたスタイルのみで、中身は空っぽだからだ。 家族をテロリストに皆殺しにされて私立探偵を雇う怪しい大富豪という発端からして噴飯物だが、その後の展開はまさに唖然である。ビールと美食、ジ…

「運命」ロス・マクドナルド

リュウ・アーチャーシリーズ長編第7作。チャンドラーに倣った模索期を経て、独自のスタイルを本作の完成と共に築き上げたといっていい。円熟期に繫がる傑作ギャルトン事件は、すぐ後だ。フロイト心理学の影響下で、悲劇的な人間の業の末路を、暗喩を多用した…

「覗く銃口」サイモン・カーニック

相変わらず荒削りながらも、タイムリミット的に疾走する展開で最後まで飽きさせない。タフではあるがやや思慮に欠ける元傭兵と、正義感に溢れながらも不器用で地味な刑事が交互に語る構成。裏切り者が誰かは、途中で簡単に分かってしまうが、アクションシー…

「流刑の街」チャック・ホーガン

以前であれば、ベトナム帰還兵。最近ではアフガニスタンやイラクの戦場を経験した元兵士を主人公に据えた作品が多くなってきた。いかにアメリカが過去も現在も、あらゆる戦争に当事国として関わり続けているかが分かる。 本作は、麻薬マフィアの抗争を軸に、…

「湖中の女」レイモンド・チャンドラー

1943年発表だが、いささかも古臭さを感じさせない。 本作は、ファンが泣いて喜ぶ名台詞も、マーロウ自身のロマンスも、魅力溢れる脇役やシビれるシーンも、チャンドラーマニアからの人気もあまりなく、いうならば地味な作品に位置する。けれども、警察権力に…

「わが心臓の痛み」マイクル・コナリー

テイストはハードボイルドだが、練り込まれたプロットと真相が明らかになるにつれ追い詰められていく主人公の焦燥感が濃密なサスペンスを生み出している。 本作の最も優れた点は、殺人者の歪みに歪んだ動機にある。臓器移植の問題点を上質のミステリの中に盛…

「血と暴力の国」コーマック・マッカーシー

所謂、ピューリッツァ賞作家が描いた犯罪小説。翻訳者のあとがきにあるように、本作には様々な解釈が可能だろう。まるで全てが幻影であるかのように、輪郭をぼかしたままに物語は進み、前後の流れをぶつ切りにして、屍の山だけが築かれていく。純粋悪を象徴…

「カリフォルニアの炎」ドン・ウィンズロウ

ウィンズロウ節とも呼べば、いいのだろうか。 簡潔なセンテンスで、短いエピソードをテンポ良く積み重ねていく。中盤辺りでは既に分厚い物語が構築されており、どう転んでいくのか全く予想が出来ない。ロシア人ギャングの抗争を軸に金と欲にまみれた人間の業…

「キリング・フロアー」リー・チャイルド

デビュー作にして、傑作。まるでウェストレイク初期のハードな犯罪小説「殺し合い」を想起させる。目的の為には殺しも厭わない元軍人の主人公。タフで非情でありながらも、複雑な謎を解く明晰さを併せ持つ骨太の男。閉ざされた田舎町で起こる巻き込まれ型の…

「やとわれた男」ドナルド・E・ウェストレイク

ウエストレイクの処女作。 非情な犯罪組織の中で生きる男を渇いた文体で描き、ハードボイルドの新鋭として脚光を浴びた。 主人公は、組織のボスの右腕として数々のトラブルを時に殺人も厭わず処理してきた。だが、その仕事を受け入れられない愛人との関係が…

「血まみれの月」ジェイムズ・エルロイ

エルロイを読む前には、少なからずの覚悟が必要だ。読了時には、エネルギーを使い果たしているはずだから。 傑作ブラック・ダリアへと昇華する前のホプキンズ・シリーズ第一作。まさに血まみれの情念に溢れた世界が展開し、狂気すれすれの刑事と狂気そのもの…

「深夜特捜隊」デビッド・グーディス

派手さは無いが、渋い犯罪小説の書き手としてのグーディスの実力が窺える作品。 元悪徳警官である主人公と、貧民街を牛耳るギャングのボス、その破滅を目論む警察のはぐれ組織、ギャングの隠し財産を狙う小悪党ども、それぞれの思惑、過去の人生が交差、絡ま…

「明日に別れの接吻を」ホレス・マッコイ

1948年発表のホレス・マッコイ第四作。 主人公は、刑務所で知り合った男と、その姉の力を借りて脱走。逃走の過程でいとも簡単に人を殺す非情ぶりを現し、さらに間をおかずに街のスーパーを襲い金を強奪する。腐敗した警察の人間には金を握らせ、また次の獲物…

「ファーガスン事件」ロス・マクドナルド

弁護士ビル・ガナースンを主人公とする唯一の作品。傑作ギャルトン事件を経て、リュー・アーチャーが透明な存在へと変わりゆく直前に、ロス・マクドナルドが躍動する生命感に溢れた本作を著したことは興味深い。過去にとらわれた家族の悲劇を主題としながら…

「LA捜査線」ジェラルド・ペティヴィッチ

紙幣偽造犯を追う財務省特別調査官の行動をサスペンスフルに描く。 尻尾を掴ませない狡猾な犯罪者マスターズを追い詰めるためには、違法捜査を厭わない型破りな調査官チャンスと、疑念を抱きながらも引きずりこまれてしまう相棒のヴコヴィッチ。さらに堅実な…

「掠奪の群れ」ジェイムズ・カルロス・ブレイク

大傑作にしてノワール史上に燦然と輝く名作「無頼の掟」「荒ぶる血」に続くジェイムズ・カルロス・ブレイクの翻訳3作目。 実在したギャングらの大胆不敵な活劇を、もはやブレイク節とも言うべき、クール且つ情熱的な筆致で描き出す。登場する男たちは全て、…

「LAコンフィデンシャル」ジェイムズ・エルロイ

圧倒された。 世にジェイムズ・エルロイのエピゴーネン数多けれど、この凄まじい情念の噴出を真似る事など不可能だろう。登場する人物殆どがまともではない。主人公は、考え方も生き方も違う三人の警官。憎しみ合いながらも、根源的なところで繋がり、最後に…

「黒い風に向って歩け」マイクル・コリンズ

ロス・マクドナルドが完成させたハードボイルドの正統的な後継者として最も相応しいのは、マイクル・コリンズが生み出したダン・フォーチューンシリーズであろう。 人間の業がもたらした過去の過ちが、ある事件をきっかけに掘り起こされ、ごく平凡に見えてい…

「眠れる犬」ディック・ロクティ

さえない中年の私立探偵の男と、依頼主となる14歳の女子高生が、交互に一人称で綴るという趣向を凝らしたミステリー。連続殺人の事件を追う二人のユーモラスなやりとりが本作の最大の魅力だが、犬の失踪から始まるプロットは充分に練られており、ラスト数ペ…

「マイアミ・ブルース」チャールズ・ウィルフォード

なんとも不思議な味わいが楽しめる作品だ。エルモア・レナードが絶賛するのも当然の作風で、小悪党と冴えない中年刑事を中心として飄々と展開する物語は、瑞々しいクライムノベルの魅力に満ちる。やる気があるのか無いのか、結局は事件を解決してしまう主人…

「俳優エディ・ブラック―殺しの代償」ウォルター・シャピロ

シャピロは、これ一冊しか紹介されていない。冴えない俳優エディ・ブラックが突発的に犯した殺人によって、その人生にどのような変化をもたらすのかに主眼を置いた、やや文学よりの渋いノワール。残酷な結末をとらず、殺しの代償は高くつくというアイロニカ…

「死者を侮るなかれ 」ボストン・テラン

結論から言えば、陰鬱で過剰な観念のみで作り上げられた大いなる愚作である。 意味不明な言動で身を滅ぼす小悪党どもと、頭の悪い自称実業家の小競り合いが繰り広げられる中、自分らを中心に世界が動いていると妄信する自意識過剰な殺し屋母娘と元保安官、こ…