海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

ミステリ/警察小説

「死の蔵書」ジョン・ダニング

長らく休筆していたダニングが、自らの経験を基に古書の世界を題材として執筆し話題となったベストセラー。元殺人課刑事で現在は古書店主という異色の経歴を持つクリフ・ジェーンウェイの活躍を描き、以降シリーズ化している。 本作には「すべての本好きに捧…

「夜を深く葬れ」ウィリアム・マッキルヴァニー

マッキルヴァニー1977発表作。骨格は警察小説だが、単にミステリとして読むだけでは、滋味深い本作の魅力を半分も味わうことはできない。舞台はスコットランド最大の都市グラスゴー。夜の公園で発生した少女殺害事件を発端に、機動捜査班警部ジャック・レイ…

「皇帝のかぎ煙草入れ」ジョン・ディクスン・カー

「アリバイ崩し」の傑作として名高い本作だが、精緻なトリックよりも、男女の愛憎や金銭でのいがみ合いなど、人間の泥臭く生々しい修羅場を盛り込んだ〝ドラマ〟仕立てのストーリー自体が面白い。部外者であるはずの探偵自らも邪心を起こし、事件関係者らの…

「クリムゾン・リバー」ジャン=クリストフ・グランジェ

グランジェ1998年発表作。自身も脚本で参加した映画でも話題となった作品だが、派手さはなく、終盤までは地道な捜査活動に終始する。フランス司法警察の警視正ニエマンスと地方警察の警部アブドゥフの二人が別の発端/ルートを経て、一つの事件へと結びつく…

「罪の段階」リチャード・ノース・パタースン

リーガルサスペンスの傑作として名高い1992年発表作。しばらく本業の弁護士に専念していたパタースンは長期休暇を取り一気呵成に書き上げたという。主人公は処女作「ラスコの死角」と同じクリス・パジェットだが、心機一転の本作で再び起用した訳とは、十数…

「傷だらけのカミーユ」ピエール・ルメートル

現代ミステリにおいて先鋭的な作品を上梓する作家の筆頭に挙げられるのは、ピエール・ルメートルだろう。怒濤の勢いで北欧の作家らが席巻する中、フランス・ミステリがいまだに前衛としての位置を失っていないことを、たった一人で証明してみせた。無論、か…

「冷えきった週末」ヒラリー・ウォー

当たり前だが、警察のリアルな捜査活動を知りたければ、ノンフィクションを読めばいい。ミステリに求めるのは本物らしさであって、物語としてのエンターテイメント性が失われたら元も子もない。警察小説の基礎を築いた重鎮としてウォーは再評価されているが…

「ゲルマニア」ハラルト・ギルバース

評判が良く期待して読んだが、序盤からかなりもたつく。まず、文章が淡白なことが最大の欠点だろう。読み進んでも、登場人物らの顔が浮かんでこず、全体的に造形が浅いと感じた。物語の舞台となるのは、ノルマンディー上陸作戦の直前、敗色濃い第二次大戦末…

「フォックス家の殺人」エラリイ・クイーン

「僕は満足していません」12年以上前に妻殺しの罪で終身刑となった男。その無罪立証のために再調査の依頼を受けたエラリイ・クイーンが、事件当日の状況を再現した後に吐く台詞だ。あらゆる事実が状況証拠の裏付けをし、男の犯行であることを、あらためて示…

「地上最後の刑事」ベン・H・ウィンタース

世評は概ね高いが、私は最後まで退屈で仕方なかった。半年後に小惑星が衝突し人類が滅びるという設定は、フィクションとしては手垢のついたものだが、それを加味したミステリとして意識しつつ読み終えても、さほどの新鮮味は感じなかった。本作は三部作の第…

「冬の裁き」スチュアート・カミンスキー

カミンスキー熟練の筆が堪能できる渋い警察小説。既に孫もいる老刑事エイブ・リーバーマンを主人公とするが、相棒となる刑事ハンラハンも重要な位置を占める。人生の黄昏時を迎えた刑事二人を狂言回し役に、罪を犯す者たちを見つめた〝人間ドラマ〟といった…

「シカゴ・ブルース」フレドリック・ブラウン

1947年発表のフレドリック・ブラウンの処女作。主人公は、十代の若者エド・ハンターで、以降シリーズとして書き継がれた。シカゴの裏町で父親を殺されたエドが、伯父の協力を経て犯人捜しをする物語だが、プロットや謎解きに特筆すべき点はない。後にミステ…

「ウッドストック行最終バス」コリン・デクスター

幅広いミステリのジャンルの中でも「本格」と呼ばれる分野に、それ程の興味は無い。といっても、私がミステリ愛好家となったきっかけは、多分に漏れずエラリイ・クイーン「Yの悲劇」の絢爛たるロジックの世界に文字通り感動したからなのだが。要は物語とし…

「蒸発した男」マイ・シューヴァル/ペール・ヴァールー

1966年発表のマルティン・ベックシリーズ第二弾。スウェーデン社会の変遷を描いた警察小説の古典として高い評価を得ている全十部作だが、初期作品は極めて地味な捜査活動を描くことに終始している。 著名なスウェーデン人ジャーナリストがハンガリーで行方不…

「自転車に乗った警視」ティモシー・ウィリアムズ

イギリス人作家がイタリアの地方都市を舞台に描く警察小説。主人公は公安警察警視トロッティ。1978年、モ—ロ元首相が極左テロリストグループ「赤い旅団」に誘拐(後に殺害)されるという不穏な時代を背景にしつつも、地方色豊かなローカル・ミステリとして味…

「暗い森」アーロン・エルキンズ

“スケルトン探偵”の異名を持つ形質人類学者ギデオン・オリヴァーを主人公とする第二作。このシリーズは日本でも好評だったようで、その多くが翻訳されている。本作が私のアロキンズ初体験となるが、正直期待はずれだった。登場人物らの軽妙なやりとりなどか…

「悲しみのイレーヌ」ピエール・ルメートル

やはりルメートルは只者ではない。カミーユ・ヴェルーヴェン警部を主人公とする2006年発表の第1作。近年稀な大ベストセラーとなった傑作「その女アレックス」でも触れられているカミーユの妻イレーヌの残酷で悲劇的な顛末が明らかとなるのだが、出版事情が…

「樽」F・W・クロフツ

クロフツ1920年発表の処女作にして代表作。推理小説の古典であり、愛好家必読の一冊でもあるのだが、肩肘張ることなく今でも充分に楽しめる。ストーリーは、殺人事件の発生からドキュメントタッチで展開し、実直な警察官と私立探偵の地道な捜査によって、ひ…

「カロライナの殺人者」デイヴィッド・スタウト

アメリカの奴隷制存続の是非を問う南北戦争が北軍の勝利によって終結したのは1865年。だが、以降も南部を中心に黒人(無論、先住民やアジア人など含む例外無き有色人種)への差別は色濃く残り、本作品のモチーフとなった事件が起こった1944年も依然として白…

「凍った街」エド・マクベイン

馴染みの刑事部屋に入り、ガサツでありながらも心優しい刑事たちに再会する。スティーブ・キャレラ、マイヤー・マイヤー、バート・クリング、ミスコロ、バーンズ……1956年発表の「警官嫌い」以降、2005年「最後の旋律」まで全56作。マクベインの死によって惜…

「ガラスの村」エラリイ・クイーン

クイーン後期の〝問題作〟とされている1954年発表作。本作に犯罪研究家エラリイ・クイーンは登場せず、元軍人ジョニー・シンが主な謎解き役兼狂言回しとなる。同時期に米国で吹き荒れたマッカーシズムに対する義憤から着想を得たとういうのが定説らしいが、…

「特捜部Q ―キジ殺し―」ユッシ・エーズラ・オールスン

シリーズ第2作。デンマーク警察の「特捜部Q 」責任者で主人公のカール・マーク警部補、助手でアラブ人のアサド、さらに本作からアシスタントとなるローセ。未解決となった不可解な事件を個性豊かな刑事らが地道に再調査し解決していくという骨子は良く出来…

「ボーン・コレクター」ジェフリー・ディーヴァー

〝犯罪学者〟リンカーン・ライムシリーズ第1作。捜査中の事故によって四肢麻痺の体となった元ニューヨーク市警の科学捜査部長ライムが、後に相棒となる警官アメリア・サックスを得て、最新の科学捜査と犯罪心理を駆使して連続殺人鬼を追い詰める。 ライム初…

「ロゼアンナ」マイ・シューヴァル/ペール・ヴァールー

以前は北欧ミステリといえば、マルティン・ベックシリーズを指した。本作は1965年発表の記念すべき第一作。 スウェーデンを遊覧中のアメリカ人女性ロゼアンナ(新訳ではロセアンナ)が遺体となって海から引き上げられる。警視庁殺人課のベックやコルベリらは…

「警察署長」スチュアート・ウッズ

優れた評論家であった瀬戸川猛資絶賛の書。アメリカ南部・架空の町デラノを舞台に、長きにわたり未解決となる連続殺人と、根深い人種差別に翻弄されつつ事件に挑んでいく警察署長三代を描いた大河小説。謎解きはあくまでも添え物で、作者の主眼は20代以降の…

「ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女」スティーグ・ラーソン

北欧ミステリ全盛の礎を築いた大ベストセラー。作者が出版前に急死するという悲劇的な要素も作品評価へのプラス材料となったのだろう。本書は3部作として世に出た内の1作目だが、私は世評ほどの面白さを感じなかった。 最大の難点は、冗長過ぎるということ…

「火刑法廷」ジョン・ディクスン・カー

ミステリ史上に残る傑作。 この作品最大の魅力は、人間消失などの複雑怪奇な謎の論理的解決と同時に、相反する非論理的なオカルティズムを融合させ、見事に成立させてしまったところにある。 エピローグを読み終え、ゾッとする悪寒を覚える読者を想像してほ…

「熱い街で死んだ少女」トマス・H・クック

舞台は、1963年の米国アラバマ州バーミングハム。マーティン・ルーサー・キングが指導する公民権運動が勢いを増す中、ある黒人少女が殺された事件を市警本部のベン・ウェルマン部長刑事が捜査する。ミステリとしての謎解きはあくまでも添え物で、本作の主題…

「ウォッチメイカー」ジェフリー・ディーヴァー

長い長い序章ともいうべき前半が過ぎれば、物語は一気に動き出す。よくもまぁ、これだけ複雑なプロットを捻り出したものだと感心。必ずどんでん返しが用意されている、と読み手は分かっている。その予想を遥かに超える仕掛けを組み込む作者の力量は凄い。 評…

「テロリスト」マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー

味わい深い大人のための警察小説。 主人公ベックをはじめ、登場人物すべてに無駄がなく、それぞれの人生に思いを馳せることができる。 愛情の込もった訳者あとがきも素晴らしい。 評価 ★★★★ テロリスト (角川文庫) 作者: マイ・シューヴァル,ペール・ヴァー…