海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

旅の記録

ミステリと「差別的表現」

英国の出版社ハーパー・コリンズ社がアガサ・クリスティーの作品を対象に「差別的表現」を削除した改訂版を出すと報じていた。「現代の読者にとって不快と思われる表現」について出版社独自の判断で修正を加える訳だが、当然物故している作者の〝意志〟は不…

「人類の叡智」という虚妄

ロシアの独裁者プーチンが始めた侵略戦争によって、その尊い命を奪われたウクライナの子どもは、ユニセフの統計によれば487人。今後はさらに増え続ける。そして親を殺され未来を失った子どもは、相当な数となるだろう。戦死者はロシアとウクライナ両軍とも10…

私的なお知らせ〜JAZZ TIME〜

私のもうひとつの趣味であるジャズの名盤、名演を「TikTok」で紹介しています。毎日更新を目指していますので、ぜひ気軽にのぞいてみてください。※本記事下段に「雑記」を追加しました。【Jazz Time】https://www.tiktok.com/@kikyo_shimotsuki?_t=8ZQcZYato…

書評という「冒険談」

1月19日、「本の雑誌」創刊者で書評家の目黒考二氏が亡くなった。享年76歳。ミステリファンには、北上次郎の筆名の方が馴染み深いだろう。特に冒険小説の水先案内人としての貢献度は計り知れず、その魅力を熱く語り尽くした「冒険小説の時代」「冒険小説論…

ありがとう、ジャック・ヒギンズ

ジャック・ヒギンズ(本名ヘンリー・パターソン)が、2022年4月9日、英領チャネル諸島ジャージー島の自宅で死去した。92歳だった。年齢を考えれば、大往生だろう。けれども、まだまだ生きる伝説として、衰退した冒険小説界を鼓舞して欲しかった。代表作「鷲…

「平和」を踏み躙るもの

似非平和イベントに成り下がった「オリンピック」終了直後の2022年2月24日、ロシアがウクライナを侵略した。日本のマスメディアは一様に〝侵攻〟という曖昧でふやけた言葉を使っているが、独立国家の主権を侵し、暴力を用いて領土を奪い取る明白な侵略戦争…

虚構を超える現実

以下はスティーヴン・キング「霧/ミスト」のレビュー中で書いたものだが、加筆した上で切り離し、『旅の記録』に収めておきたい。 2021年1月現在、現代を生きる全ての人が、出口の見えない同時的な不安、最悪の場合には死に至る予測不能な疫病蔓延の直中に…

ジョン・ル・カレの航跡

既に報道されている通り、2020年12月12日にジョン・ル・カレ(本名デイヴィッド・コーンウェル)が死去した。享年89歳。私は熱烈なファンという訳ではなかったが、訃報を知って或る喪失感に陥ったのは、偉大な作家をまた一人失ったという寂寥と、スパイ小説…

海へ

その冬、初めての雪だった。夕刻から降り出した風花は、街を抜けて湾岸道路を走る頃には勢いを増していた。ヘッドライトの光芒に乱反射し舞い落ちてくる雪片は、幻影のように私を淡い記憶の彼方へと導いた。揺れ惑う結晶のプリズム。その残像に軽い目眩すら…

「海外ミステリ専門誌」という呪縛

早川書房「ミステリマガジン」が〝海外ミステリの情報も掲載〟する定期刊行誌と成り果ててから久しい。 1956年創刊の前身「E Q M M」時代から、海外の優れた作家たちをいち早く紹介し、珠玉の短編や刺激的な評論で推理/探偵小説の魅力を伝え、多くの海外ミ…

鉛の心臓は何故二つに砕けたのか。〜「幸福の王子」オスカー・ワイルド〜

人生の旅路。その途上で出会う幾つかの物語。 オスカー・ワイルドが30代で発表した美学の結晶『幸福の王子』は、今でも折にふれて読み返している。耽美で静謐な文章、自己犠牲の尊さと虚しさを説く強烈な風刺。凍てついた街を舞台に、無力な偶像と一羽の鳥が…

旅の途上、沈黙する街で 【2020.4.1追記】

非日常が日常へとなりつつある。小説や映画ではない。不条理な死がどこまでも現実味を帯びて間近に迫り、脅かしている。ミステリを通して親しんだ海外の都市は情景を変え、そこにあったはずの賑やかな人々の笑顔も失われている。沈黙する街、無辜の人々の死…

千切れたノート

新しいノートを何気なく手に取った。 パラパラとページをめくりさて何を書こうかと思案していた時、私はあることに気づいた。 ちょうどノートの中ほどに一枚分が破かれた跡を見つけた。 勢いよく引き千切った様子を物語るギザギザのまま残った切れはし。 い…

星の断想

仕事帰り。駐車場に車を停め、少し離れた住居に向かう途上で、しばらく空を見上げるのが日課となっている。私の住む田舎では今でも満天の星を仰ぐことができるのだが、幼い頃に飽きもせず眺め続けた星空とは、随分と変わってきたように思う。 それは、汚染さ…

途中下車 〜海外ミステリ雑記帳〜

旅の途上でひと息入れた道すがら、どこまでも私的な海外ミステリの読み方について、その一端を脈絡のないままに記しておきたい。 ………………………………………………… 愛読する作家やシリーズは数多いが、一作品を読み終えた後は、しばらく距離をおくことにしている。集中し…

「旅の記録」としての海外ミステリ

海外ミステリや映画のレビューを綴られているブログ「僕の猫舎」のぼくねこさんが、この度「海外ミステリ系サイトのリンク集」をまとめられた。https://www.bokuneko.com/entry/2019/02/25/121721拙ブログも著名な方々と共に紹介して頂いており恐縮しきりな…