海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「死者を侮るなかれ 」ボストン・テラン

結論から言えば、陰鬱で過剰な観念のみで作り上げられた大いなる愚作である。
意味不明な言動で身を滅ぼす小悪党どもと、頭の悪い自称実業家の小競り合いが繰り広げられる中、自分らを中心に世界が動いていると妄信する自意識過剰な殺し屋母娘と元保安官、これまた正体不明のブン屋が無意味で小っ恥ずかしい哲学的独白をぶつけ合い、殺し合う。プロットは完全に破綻しているため、ストーリーの面白さも味わえないまま、ただひたすらに深みの無い登場人物たちの自慰的台詞に耐えなけれならない。結末も支離滅裂で、破滅的な暴力に何の必然性も無い。この格好つけた気取り屋どもの世界観を詩的表現と評するのは勝手だが、単なる文学かぶれによる出来損ないの習作どまりであろう。これ程大量の言葉を浪費しながら、最後まで薄っぺらいのには、逆に感心してしまう。この作品に限っていえば、テランの意気込みは終始空回りしており、極一部のコアなファンを除いては、読む行為そのものに苦痛を強いる明らかな失敗作である。どう感化されたのかは知らないが、某ネットショップにおける本作品の絶賛レビューを鵜呑みにすれば、痛い目にあうだろう。

文体はハードボイルド/ノワールのスタイルを構築する上で重要な要素だが、肥大化した装飾過多の言葉の羅列は、逆に感傷を食い殺す。

 評価 ☆

死者を侮るなかれ (文春文庫)

死者を侮るなかれ (文春文庫)