海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「屍肉」フィリップ・カー

傑作「偽りの街」でナチス・ドイツ下でのハードボイルドを見事に成立させた才人フィリップ・カー。本作は、ソ連崩壊後の旧レニングラードを舞台に、混乱期に乗じて台頭するロシア・マフィアと刑事らとの対決を臨場感溢れる筆致で描き切る秀作だ。人々の生活は困窮し、食料や物の値段は高騰、登場する刑事たちの家庭も貧しい。旧体制への恐怖感の残滓と、急速な資本主義への転化がもたらす倫理の荒廃。背景となる社会状況が物語に深みを与え、巨悪に立ち向かおうとする刑事らの息遣いが生々しい勢いで迫ってくる。

評価 ★★★★

 

屍肉 (新潮文庫)

屍肉 (新潮文庫)