海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「スクールボーイ閣下」ジョン・ル・カレ

所謂スマイリー三部作の中核を成す長編だが、とにかく読み終えるまで忍耐を要した。前作からの重厚感たっぷりの筆致は本作で極限まで達している。濃い霧の中を電池切れ寸前の懐中電灯を持ってそろそろと歩むが如き第一部を終え、末端の工作員が内戦中のカンボジアを舞台に活躍し始める段になってようやく物語は精彩を取り戻すのだが、宿年の敵であるソ連の大物カーラへの打撃が如何なるものであるのかは釈然としないままに、これまたぼんやりとミッションは閉じられていくのである。
国家間の覇権争いの下、単なる駒として扱われ、虫けらの如き悲劇的な末路を迎える諜報員を描くことはスパイ小説の常套だが、本作ではそれさえも弱められた印象だ。やはり、饒舌過ぎるのである。この作品にエンターテイメント性を犠牲にしてまで訴える何らかの哲学を感じることは少ない。

評価 ★★☆

 

スクールボーイ閣下〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

スクールボーイ閣下〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

 

 

 

スクールボーイ閣下〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

スクールボーイ閣下〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)