海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「真夏の処刑人」ジョン・カッツェンバック

実力派カッツェンバックの処女作にして傑作。
主人公アンダースンは、スクープに飢えるマイアミ・ジャーナルの社会部記者。ひと夏の悪夢の如き連続殺人事件の顛末を緊迫感溢れるドキュメントタッチで描く。

第一の被害者となる少女惨殺事件の記事をアンダースンが書いたことが発端となり、殺人者との奇妙なやりとりが始まる。第二、第三の犠牲者が続く中、犯行後、その一部始終を殺人鬼は電話を通してアンダースンのみに語る。独占的報道は、新聞と担当記者の評価を高めるが、犯行を止められずに、ただ犯人の狂った言動を伝え、街を恐怖に陥し入れることしか出来ないアンダースンは、ジャーナリストとしての使命と限界に苦悩する。これが単に警察官と犯人の対決という設定であれば、作品にこれほどの深みをもたらすことはできなかっただろう。饒舌な殺人者の異常ぶりも徹底しており、動機の真意は最後まで分からず、果たして事件が本当に終焉したのかも曖昧なまま幕が引かれる。

下手なホラー作品よりも恐ろしく、先の展開が読めない極上のサスペンス、さらにはベトナム戦争の無惨な戦場の有り様もリアルに盛り込まれており、単なる娯楽小説に終わらない重い余韻を残す。恐らく、この結末以外にはなかったのだろう。見事な小説だ。

評価 ★★★★★

 

真夏の処刑人 (ハヤカワ文庫 NV 333)

真夏の処刑人 (ハヤカワ文庫 NV 333)