海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「明日に別れの接吻を」ホレス・マッコイ

1948年発表のホレス・マッコイ第四作。
主人公は、刑務所で知り合った男と、その姉の力を借りて脱走。逃走の過程でいとも簡単に人を殺す非情ぶりを現し、さらに間をおかずに街のスーパーを襲い金を強奪する。腐敗した警察の人間には金を握らせ、また次の獲物を狙う。
マッコイは当時、実存主義文学とも称されたらしいが、過去に受けた心的外傷がもとで暴力的衝動が抑え切れない主人公の思考と言動は、確かに不条理で一貫性が無い。簡単に転がり込んでくる大金は拒否し、己自身が企てた薄汚い犯罪に執着、大金持ちの娘よりも、誰とでもベッドをともにする欲深い女に惚れる。結局は選択を誤って、身の破滅を招くのだが、まるで最初からそうなることを望んでいたかのような最期である。
犯罪小説としてみるよりも、破滅型人間の末路に主眼を置いたやや文学よりの作品として捉えるべきか。絶命寸前の描写は秀逸。

評価 ★★★

 

明日に別れの接吻を (1981年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

明日に別れの接吻を (1981年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)