海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ベルリンの葬送」レン・デイトン

スパイ小説の巨匠としてル・カレと並び称されるデイトンだが、いささか日本での人気に差があるのは、作風の違いというよりも、屈折した構成の物語に拒否反応を示す読者が多いからだろう。
読み終えてみれば、本筋は粗方理解できるのだが、それもぼんやりと浮かびあがってくる類いのもので、諜報戦の只中に放り出されて路に迷うこともしばしば。早いテンポで章が変わる都度、主人公の名無しのスパイは、場所を移し、違う相手に軽口を叩き、不確かな真相に迫りつつも小出しにし、またも前後の説明を一切省いて、次から次へと渡り歩く。読者はとにかくついていくしかないのだが、それでも面白く読ませてしまうのは、皮肉屋ながらも己のビジネスをきちんやり遂げていく、雇われスパイのハードボイルドタッチのスタイルに心引かれてしまうからだろう。
全てが曖昧模糊とした世界にこそ、スパイは生息し、そこには始まりも終わりもない…とデイトンが告げているかのようだ。

評価 ★★★