以前であれば、ベトナム帰還兵。最近ではアフガニスタンやイラクの戦場を経験した元兵士を主人公に据えた作品が多くなってきた。いかにアメリカが過去も現在も、あらゆる戦争に当事国として関わり続けているかが分かる。
本作は、麻薬マフィアの抗争を軸に、生きる糧も行き場も無くした元兵士の成り上がりと挫折、壮絶な復讐劇までを描くノワールタッチの犯罪小説。
中盤までは、無垢で従順な主人公の行動はいささかじれったいが、全てを失ったあとからの血みどろの闘いは、クライマックスまで疾走し、怒濤の盛り上がり方をみせる。
ストーリー展開に船戸与一の猛き箱舟との類似を感じた読者も多いだろう。血のたぎるテンションの高さでは船戸の筆力が勝るが、破滅へと向かって全てを破壊していく暴力の噴出度では負けてはいない。
評価 ★★★★☆