小説を読んで涙したのはいつぶりだろう。
この重苦しく、やるせなき悲劇に満ちた傑作は、ミステリという範疇を超えて、いつまでも深く心に残る濃密な物語として読み継がれていくだろう。
冒頭から降り続いた暗鬱な雨は、美しくも哀しいラストシーンの直前にやむ。そして、宿命と呼ぶにはあまりにも不条理で残酷な幕切れに、暫く茫然となり、無残なる血の報いに言葉を失う。
遺伝子研究は、人類にとっての希望であり、また新たな絶望への路をも指し示すことを痛烈に感じた。
評論家の池上冬樹が、結城昌治や河野典生のハードボイルドと通底するものを感じたらしい。
抑制の効いた文体であるからこそ心を揺さぶる情景が描けるという、優れた作家のみが持ち得る技巧を備えている。翻訳も見事だ。
この作品の評価如何で、読み手の力量も試されるだろう。
評価 ★★★★★☆☆
- 作者: アーナルデュル・インドリダソン,柳沢由実子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2012/06/09
- メディア: ハードカバー
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