海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ユダの山羊」ロバート・B・パーカー

村上春樹がパーカーのファンだというのも頷ける。どちらも格好つけたスタイルのみで、中身は空っぽだからだ。

家族をテロリストに皆殺しにされた復讐のために、私立探偵を雇う大富豪という発端からし噴飯物だが、その後の展開はまさに唖然である。英国へと飛び、ビールと美食、ジョギングの間に人狩りをする能天気な探偵スペンサーは、これまた無能揃いの自称テロリストグループを観光の合間に殺しまくり、その罪を自戒することなく母国に置いてきた恋人を思いすすり泣く。素性の知れない外国人の探偵が国内で人を殺しまくっているというのに、英国の警察は感謝しつつ平然と見逃すという、あり得ない茶番ぶり。アフリカを共産主義者や黒人から救いだす? 今は亡きパーカーよ、もっとましな設定はなかったのか?
スペンサーの相棒らしい人物はステレオタイプで気の利いたセリフもなし。登場人物全てが、スペンサーの虚像/ナルシズムを肥大化させるための単なる道具に過ぎない。なんともお粗末な内容なのに、この作品を絶賛する読者諸氏の感想に恐れ入るしかない。

小説ならば最低限のリアリティは必須であろうが、パーカーは鬱陶しい男の誇りにこだわるばかりに一切の真実味を排除する。その結果、見事な馬鹿小説が完成した。

当然ハードボイルドの精神などかけらもなく、活劇も中途半端。ホテルでテロリストを待ち伏せするスペンサーの滑稽さは、パロディとしても笑えない。
しかし、こんな似非ヒーロー小説の何が楽しいのだろう。私には苦痛な読書時間が終わった解放感しか味わえなかったが。スタイルだけでは良質の小説は仕上がらないという恰好の見本だ。

評価 ☆