海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「グラーグ57」トム・ロブ・スミス

前作の興奮冷めやまぬまま、続編を読了。
エネルギーに満ち溢れた著者の才気を存分に感じる力作だ。
この作品でも、主人公レオをはじめ登場人物全てが極限的状況下で生死を彷徨う。大半は悲惨な死を遂げることになるが、お涙頂戴的な甘さを一切排しており、彼らの最期は無常で不条理だ。
とにかくサディスティックなまでに、第二作に於いても冒頭からレオは心身をボロボロにされ、一瞬の幸福感に浸ることも許されない。だが、希望は捨てない。行動することこそが、すなわち再生への道であるかの如くにひたすら突き進む。
歴史的事件、イデオロギーの挿話は、あくまでも小説の素材として取り入れており、レオを軸とする家族らの冒険を通して、人間の尊厳と絶望からの再生への道程を活写する。

評価 ★★★★★

 

グラーグ57〈上〉 (新潮文庫)

グラーグ57〈上〉 (新潮文庫)

 

 

 

グラーグ57〈下〉 (新潮文庫)

グラーグ57〈下〉 (新潮文庫)