海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「男の首 黄色い犬」ジョルジュ・シムノン

シムノンの真の魅力を識るには、読者自身が成熟した大人であることが必須なのであろう。
男の首に登場し、深い余韻を残す犯罪者の見事な心理描写は、現代のミステリー作家が束になっても敵わないに違いない。
不公平な貧困とブルジョワへの憤怒、余命僅かな己の人生への絶望と孤独、天才と紙一重の狂気など、ドストエフスキー罪と罰を下敷きとして、自尊心故に自らが告白する不条理な動機の発露は、異様な迫力に満ち圧倒する。

評価 ★★★★★