海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「魔のプール」ロス・マクドナルド

リュウ・アーチャーシリーズ第2作。
ギャルトン事件以降の静謐で透明な文体、人間の業を見つめる厳しくも優しい眼、狂言回しとしてひたすらに悲劇的な家族の有り様と向かい合い続けた、孤独な私立探偵アーチャー。
この作品では、僅か最終章にのみ、円熟期の傑作に繋がる素養があるだけで、冒頭から終盤まで拳銃片手にエネルギッシュに卑しい街を闊歩する若々しいアーチャーを楽しめる。
減らず口をたたき、ささやかな暴力なら厭わず、女性に対してもやや色目を使う。
まだ、この段階ではハメットにも、チャンドラーにも、しっかりと繋がっている。無論、ロス・マクドナルドの真価は、まだ発展途上にあったのだが。

評価 ★★★★

 

魔のプール (創元推理文庫 132-5)

魔のプール (創元推理文庫 132-5)