ドン・ウィンズロウ渾身の大作。
麻薬戦争と名付けられた余りにも愚かで残虐な血の抗争の記録。過去を語りながらも、常に現在進行形の文体で進み、否が応でも鋭い緊張感を読者に強いる。
マフィアの復讐劇、大国と弱小国家の茶番的謀略、虐げられる民衆の悲劇、と様々な要素を組み込みながら、著者は翻弄されつつも強い信念を抱き麻薬カルテル壊滅に向けてひた走る主人公ケラーを描き切る。特に孤独な殺し屋と娼婦の設定が巧い。
この世の地獄絵図を巡った果てに辿り着く終局をようやく乗り越えて、その先に待ち受けているものとは、再び繰り返される血の戦いに他ならない。
数多の屍の上にまた、新たな死者が群れをなして折り重なっていく。
ウィンズロウは、果たしてこの作品を超えるものを、これから創作できるのだろうか。そんな余計な心配をする程の完全燃焼ぶりである。
故東江一紀氏入魂の翻訳もすばらしい。
評価 ★★★★★☆☆
【追記】最近知ったのだが、続編が発表されたらしい。ケラーとバレーラも登場する「ザ・カルテル」。しかも、二部作として映画化の決定も。読むしかないし、観るしかない。前篇を超える凄まじいパワーの噴出に期待したい。
- 作者: ドン・ウィンズロウ,東江一紀
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2009/08/25
- メディア: 文庫
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