海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「火刑法廷」ジョン・ディクスン・カー

 ミステリ史上に残る傑作。

この作品最大の魅力は、人間消失などの複雑怪奇な謎の論理的解決と同時に、相反する非論理的なオカルティズムを融合させ、見事に成立させてしまったところにある。

エピローグを読み終え、ゾッとする悪寒を覚える読者を想像してほくそ笑むカーのしてやったりの表情が浮かぶようだ。

この力技は、カー以外では成し得なかったであろうし、ずば抜けたストーリーテーリングがあってこそのプロットだ。最初から最後まで強烈なサスペンスに満ち、登場人物の優れた造形が物語に深みを増し、天才カーの迷宮世界が妖しくも絢爛と形作られている。

評価 ★★★★★

 

火刑法廷[新訳版] (ハヤカワ・ミステリ文庫)

火刑法廷[新訳版] (ハヤカワ・ミステリ文庫)