海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「スパイになりたかったスパイ」ジョージ・ミケシュ

ミケシュは、英国に帰化したハンガリー生まれの社会批評家で、日本に関する著作もある。本書は唯一のフィクションらしく、スパイの世界を茶化したファースとなっている。

ソ連の人々の飢餓を救う「夢の食品」の製造法を入手すべく英国へ送り込まれた主人公。禁書であるイアン・フレミングのスパイ/ジェイムズ・ボンドに憧れる平凡な学生に過ぎなかった男が、得意の〝すけこまし〟を買われてKGBのにわかスパイになるという発端から以降、まともな人物は登場せず、まとまな展開もない。結局は人民の命よりも己らの名誉、さらにはライバルGRUを出し抜くことを優先させるKGB官僚。随所にアイロニカルな社会批判を挿入しつつ、意外にも本質を突いた高慢で愚劣な世界をユーモアたっぷりに描く。

評価 ★★★

 

スパイになりたかったスパイ (講談社文庫)

スパイになりたかったスパイ (講談社文庫)