海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「聞いてないとは言わせない」ジェイムズ・リーズナー

世評は高いようだが、どこといって魅力を感じなかった犯罪小説。とはいえ、テンポ良く最後まで一気に読ませてしまうのだから、筆力は確かにあるのだろう。

謎に満ちた若い男が、人里を離れて身を隠すように農業を営む40代の女を訪ねる。数週間、仕事を手伝う内に、当然のように二人は体の関係を持つ。男は、ある目的を持って女の素性を調べていたのだが、それに女が気付いた瞬間、見知らぬ男二人が突然現れ、女に向かって発砲する。

以降、強奪した金を巡る犯罪者同士の騙し合いが、農場の女を中心として展開される。平凡な女が、実はプロの犯罪者であったという設定はいいのだが、単に大口を叩くだけで、その玄人ぶりが伝わらない。これは、他の登場人物にも言えることで、元の仲間も、女に味方する若い男も、ことごとく無能で格好良くない。若い男の哀れな結末も、女の自意識過剰な台詞も、さっぱり情感が流れない。

スタイルだけのクライムノベル。

評価 ★★

 

聞いてないとは言わせない (ハヤカワ・ミステリ文庫)

聞いてないとは言わせない (ハヤカワ・ミステリ文庫)