海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女」スティーグ・ラーソン


北欧ミステリ全盛の礎を築いた大ベストセラー。作者が出版前に急死するという悲劇的な要素も作品評価へのプラス材料となったのだろう。本書は3部作として世に出た内の1作目だが、私は世評ほどの面白さを感じなかった。


最大の難点は、冗長過ぎるということだ。
経済専門誌のジャーナリストが仕組まれたスクープの罠に掛かり挫折。直後、幼小の頃に世話になった実業家の依頼を受け、失踪もしくは殺害されたと思しき少女の謎を追い掛ける。だが、それは陰鬱なる連続殺人までを同時に掘り起こし、呪われた一族の実像を白日の下に曝す序幕に過ぎなかったというのが本筋。

主人公が真相を解明する鍵を手に入れるのは長大な物語のようやく中盤に差し掛かるころであり、それまでは憎み合う複雑な家族関係とその歴史にまつわる挿話を、家系図を何度も参照しつつ延々と辿ることとなる。その合間には、本シリーズのもう一人の主役である女調査員のエピソードが積み重ねられていくのだが、設定ほどのインパクトは無く魅力に乏しい。

後半に至り、物語はスピード感を増して動いていくが、連続殺人犯や行方不明の女があっさり登場し一気に解決、主人公の汚名も晴れ、大団円へと向かう。要はストーリーが締まっておらず、メリハリに欠けるのだ。登場人物は多いがステレオタイプで、それぞれが意外性の無い言動に終始する。

 勢いのままに書き上げたような作品で、じっくりと絞り込めば深みも出たに違いない。まるで生き急いでいたかのような作者の死が残念だ。

評価 ★★★

 

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

 

 

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)