海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「まるで天使のような」マーガレット・ミラー

ミラー1962年発表作。

辺境で自給自足の生活を送り、俗世間との接触を閉ざした新興宗教団体「天国の塔」。私立探偵クインは尼僧の一人から依頼を受け、オゴーマンという名の男の行方を調べるが、5年前の嵐の夜、川に転落したオゴーマンの車が発見され、たまたま拾ったヒッチハイカーに殺されたと伝えられていた。クインは関係者を当たるが、狂気染みた人物たちの織りなす愛憎が真相を闇深くへと潜り込ませていた。

心理サスペンスを得意とするミラーの作風は本作では抑え気味で、シニカルな私立探偵クインの行動を中心にハードボイルド・タッチで謎解きが展開する。描写には、夫・ロス・マクドナルドの影響が少なからず垣間見ることが出来、微笑ましい。ただ、狂気の有り様を内面ばかりではなく、客観描写でゾッとさせる手法は熟練の極みで流石である。

ラスト1ページで明らかとなる「衝撃の真相」は、中途に張り巡らされた伏線で弱めらてはいるが、悲劇的な情景としては充分効果的だ。
評価 ★★★
 

 

まるで天使のような (創元推理文庫)

まるで天使のような (創元推理文庫)