海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「恐怖の限界」ウィリアム・P・マッギヴァーン

名作「明日に賭ける」や一連の悪徳警官もので知られるマッギヴァーン1953年発表のスリラー。イタリア・ローマを舞台に、冷戦下で展開する謀略の渦中へと自ら身を投じていくアメリカ人マーク・レイバーンの闘いを活写する。

イタリアでの仕事を終えた建築技師レイバーンは、帰国直前のホテルのバーで、不審な男の影に怯える女を偶然にも助ける。だが、女は素性を隠したまま姿を消す。やがて女に付きまとう男の正体がロシア秘密警察の幹部であり、一人の亡命者を巡る陰謀がその背景にあることを知ったレイバーンは帰国を取り止め、ある信念を持って行動を開始する。

重要な登場人物がもう一人。安寧よりも過激なスリルを求める左翼の新聞記者ジャニー・ドレーク。物語は、愚直なレイバーンと皮肉屋のドレークが眼前の危機にどう向き合い、「恐怖の限界」に達した中でどう克服するのかを描いていく。

 限界的な状況に押し潰されながらも、ドレークが最期にとった行動に、本作のテーマが凝縮されているようだ。

評価 ★★★

 

恐怖の限界 (1961年) (創元推理文庫)

恐怖の限界 (1961年) (創元推理文庫)