海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「拳銃を持つヴィーナス」ギャビン・ライアル

不朽の名作「深夜プラス1」によって冒険小説ファンに愛され続けるギャビン・ライアル。だが、寡作でありながらも作品の出来不出来が激しく、本作は残念ながら凡作の方に入る。

拳銃の骨董商を営む主人公がニカラグアの富豪の依頼を受け、著名な芸術家の手による美術品の密輸に携わる。ヨーロッパ各地を巡る途中で、盗難や鑑定家が殺害されるなどの様々な障害が待ち受けるが、持ち前のタフネスで危機を脱していく。

幾らでも面白くなる要素があるのだが、絵画や拳銃のうんちくを盛り込むライアルはまるで手引書でも書くつもりだったかのようだ。控え目な活劇と地味な謎解きに終始しており、不満が残る。ライアルは女性を描くのが苦手らしく、主人公と女性鑑定家のロマンスも、さっぱり印象に残らない。

ただ、翻訳者が小鷹信光のため文体はハードボイルド・タッチでキビキビしている。ハヤカワ・ミステリ文庫版の荒川じんぺいの装幀がスタイリッシュで良い。

 評価 ★☆

 

 

拳銃を持つヴィーナス (ハヤカワ・ミステリ文庫)

拳銃を持つヴィーナス (ハヤカワ・ミステリ文庫)