海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「エージェント6」トム・ロブ・スミス

壮大なる実験でもあった理想国家ソ連の闇を照射する傑作シリーズ完結編。

三部作其々が喪失と再生を主題にしているが、本作では遂に主人公レオが最愛の人まで失う。絶望と退廃の中で行き場なき怒りが暗流を漂い、復讐と呼ぶにはあまりにもやるせない本懐を遂げた後、娘二人との最後の再会をもって、レオはささやかな幸福に包まれ退場していくのだが、これまでの怒涛の道程を知る読者にとっては感慨深く、重い余韻を残す。極限的状況下で踏み躙られていく人間の尊厳のために真っ当な正義を貫くことは、必然的に愛する家族を危険に晒すことに繋がっていく。その凄まじいまでの憤りが一人の男にどの様に影響し、人生を変えていくのかを、アメリカ、アフガニスタンと主要な舞台を変えつつ描き切る。当然の如くソ連は自壊したが、トム・ロブ・スミスが本シリーズで主題としたテーマは不変である。

評価 ★★★★★

 

エージェント6(シックス)〈上〉 (新潮文庫)

エージェント6(シックス)〈上〉 (新潮文庫)

 

 

 

エージェント6(シックス)〈下〉 (新潮文庫)

エージェント6(シックス)〈下〉 (新潮文庫)