海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ザ・ポエット」マイクル・コナリー

現代ハードボイルドの旗手とされるマイクル・コナリーだが、本作や「わが心臓の痛み」を読んで感じるのは、純粋に「ミステリ(推理)」が好きな作家なのではないか、ということだった。二重、三重に捻りを加えた構成は極めて複雑で、〝どんでん返し職人〟ジェフリー・ディーヴァー並みの仕掛けを施している。ただ、真相に迫る謎解きが、更なるミスディレクションを含みつつ後半から終幕へ向けて一気に展開される為、ややツイストが効き過ぎて真犯人の動機が御座なり(敢えて伏せている)になってしまっている。

主人公の新聞記者が、スクープに飢えつつも、「シニカル」な境地に陥り限界を感じており、作家への転身を夢見ているという設定に、著者自らの経験が垣間見えて興味深い。メイン・プロットは、場所を変えて頻発する子供を対象とした異常性愛者による殺しと、それを追う殺人課刑事が自殺を偽装されて次々と殺害されていくというもの。拳銃を咥えた刑事らがエドガー・アラン・ポーの詩を書き残したことから「詩人」と名付けられた殺人者が自滅し、一旦解決したかに見えながらも新たな疑惑を残し、特定されないままに終盤へと向かうプロットも見事だ。

FBIの捜査の軸となるのはプロファイリングであり、物的証拠と犯罪心理学が合わさり真犯人へと迫っていく過程が本書の最大の見せ場といえる。ハードボイルドではないが、上質のサスペンスが味わえる一級品。

評価 ★★★★

 

 

ザ・ポエット〈上〉 (扶桑社ミステリー)

ザ・ポエット〈上〉 (扶桑社ミステリー)

 

 

 

ザ・ポエット〈下〉 (扶桑社ミステリー)

ザ・ポエット〈下〉 (扶桑社ミステリー)