海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「L.A.で蝶が死ぬ時」ロバート・キャンベル

ロサンジェルスの私立探偵ホイスラーを主人公とする三部作の第1作。ハードボイルドの定式におさまらないオフビートの魅力に溢れた作品で、ハリウッドの最下層、女優の卵や未成年者を食い物にする裏社会の無惨な暴力の実態を描き出す。

事務所を持たないホイスラーは、読書家である〝街角の哲学者〟ボスコの営むコーヒー・バーに入り浸る。そこには市警未成年者風紀取締課の刑事カナーンも集い、下劣なテレビ俳優が自動車事故で引き起こした残虐な事件の隠蔽について折に触れて意見を交わし、見返りを求めない援護をする。この三者のやり取りが実に味わい深く、熱く議論する訳でもなく皮肉を交じえつつ、坦々と眼前にある問題を提示し、次に何を為すべきかを確認し合うだけなのだが、固い友情で結ばれた彼らの情景がなんともいえない深みを本作にもたらしている。

弱音を吐きつつも報酬の見込みのない殺人事件の真相を追求するホイスラーの闘いは、闇の世界に生きるヒーローとしての正義感に満ち、冷血な敵に立ち向かうさまは、時に感動的ですらある。

 変則的ではあるが、新しいハードボイルド(ノワール)のスタイルを築いた傑作だ。

評価 ★★★★★