海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「パーフェクト・ハンター」トム・ウッド

凄まじいボルテージのアクションで埋め尽くされた圧巻の活劇小説。プロ対プロの暗殺者の闘いを終始ハイテンションで描き切る。殺し屋を主人公とするスリラーは吐いて捨てる程あるが、完成度に於いて本作は傑出している。ロバート・ラドラムの傑作スリラー「暗殺者」を映画化した〝ジェイソン・ボーン〟シリーズの影響が顕著(推測)で、極めて映像的な描写によって圧倒的な臨場感を生み出している。

常に敵の裏をかく頭脳戦、閉ざされたホテル内や広大な雪山でのスピード感溢れる銃撃戦、五感を研ぎ澄ます肉弾戦、クライマックス近くのド迫力のカーチェイスなど、見事な筆致でテンポ良く展開させていく。

ロシアの軍事機密を狙うCIAの策略が内部の裏切りによって崩れ落ち、関わった人間が何者かに次々と殺されていくというメインプロットはシンプルなものに抑え、嵌められた冷徹な暗殺者が裏切者を追いつめていく戦闘にストーリーの重点を置く。

主人公ヴィクターが協力者となる女性と行動を共にする事で、非情に徹した暗殺者の感情に揺らぎが生じていく過程も巧い。最終的な目的が復讐へと変貌するさまも、パターン化されているとはいえ、物語に深みをもたらしている。フランス、スイス、ロシア、タンザニアと場所を変えつつ、一気に最後まで読ませてしまうトム・ウッドの力量はデビュー作と思えぬほど凄い。

評価 ★★★★★

 

パーフェクト・ハンター (上) (ハヤカワ文庫NV)

パーフェクト・ハンター (上) (ハヤカワ文庫NV)

 

 

 

パーフェクト・ハンター (下) (ハヤカワ文庫NV)

パーフェクト・ハンター (下) (ハヤカワ文庫NV)