海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ガラスの村」エラリイ・クイーン

クイーン後期の〝問題作〟とされている1954年発表作。本作に犯罪研究家エラリイ・クイーンは登場せず、元軍人ジョニー・シンが主な謎解き役兼狂言回しとなる。同時期に米国で吹き荒れたマッカーシズムに対する義憤から着想を得たとういうのが定説らしいが、独善的「正義」を標榜し排外的性質を帯びる米国型民主主義への危機感が多少なりともあったのだろう。
相変わらず人間の描き方に深みが無いため、雑多な登場人物を把握できずに中途まで混乱するのだが、ジョニー・シンのみは造型に力を入れており、戦場での異常な経験を経たニヒリストが、保守的で閉鎖的な村に突如「異邦人」として登場するという設定によって、物語に「動的」な趣向を凝らしている。
肝心のプロット(謎解き)自体は〝甘い〟ものだが、クイーンは技巧を凝らしたトリックにもはや重点を置かず、殺人事件を通して一変する社会や人間の有り様、そこから生じる軋轢や揺らぎを「ミステリ」の中で表現することを試みていたのだろう。

評価 ★★★

 

ガラスの村 (ハヤカワ・ミステリ文庫 2-8)

ガラスの村 (ハヤカワ・ミステリ文庫 2-8)