海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「狼を庇う羊飼い」ベンジャミン・シュルツ

ワシントンDCの私立探偵レオ・ハガティーを主人公とする第一作、1985年。

幼い双子を誘拐されたソーンダーズ家のもとに、犯人から5年ぶりに電話があり、逆探知の情報を掴んだ父親は警察を頼らず単独で手掛かりを追っていく。情緒不安定の夫を心配した妻が、ハガティーにその行方捜しを依頼するというのが発端。誘拐犯はソーンダーズ以外にも犯行を重ねているが、その罪を告解によって唯一知るカトリックの神父は、苦悩しつつも新たな犠牲を防ぐことが出来ない。だが、その葛藤は自己陶酔的であり、納得できる動機付けではない。ハガティーは、追跡の途中で偶然にもレイプから救った女と行動を共にするのだが、行き当たりばったりなやり方は不真面目な印象しか残さない。結局、誰一人救うことも出来ず、暴力の信奉者らしい相棒の不在を嘆き、何を考えているのかさっぱり判らない犯人との対決で自らも肉体的に傷付けられてしまうのだが、ちゃっかりと女とはいい関係になっている。双子がどうなってしまったのかは、結末を過ぎても読者に知らされないという破綻ぶりである。溜息。

評価 ☆

 

狼を庇う羊飼い (扶桑社ミステリー―私立探偵レオ・ハガティー・シリーズ)

狼を庇う羊飼い (扶桑社ミステリー―私立探偵レオ・ハガティー・シリーズ)