海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ノヴェンバー・マン」ビル・グレンジャー

米国のスパイ、デヴェローを主人公とするシリーズで1979年発表作。CIAの監視役も兼ねて設立された対抗組織としての米国情報部Rセクションが物語の軸になり、IRAのテロを巡っての敵味方入り乱れての諜報戦と妨害工作が展開する異色のエスピオナージュ。

イギリスの有力者暗殺をIRAが目論んでいるとの情報が現地工作員からもたらされ、真相を探るためにRセクションのエージェント、デヴェローが派遣される。接触した工作員は間も無く惨殺され、デヴェロー自身も何者かに命を狙われる。救ったのは旧知のKGBの男で、暗殺計画の背後にはCIAがいると暗示する。IRAをCIAが影で操っているとすれば、その目的とは何か。さらに、KGBが絡むことで情報は錯綜し、ダブルスパイの裏切りによって幾人もの死体が転がっていく。

 現役のジャーナリストである著者の筆致は、処女作でありながらも虚実織り交ぜた巧みな構成で読ませる。ただ、気合いが入り過ぎて、サービス過剰なところもあり、次作に期待というところ。

評価 ★★☆

 

ノヴェンバー・マン (集英社文庫)

ノヴェンバー・マン (集英社文庫)