海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「天使と悪魔」ダン・ブラウン

読者を徹底的に楽しませることに主眼を置いた傑作エンターテイメント小説。冒頭の1ページ目を読み始めたら、最後まで一気読みは必至である。映画もヒットしているが、バチカンとローマの名所を巡りつつ展開する物語は極めて映像的で、観光ガイドとして活用されているのも納得の内容だ。また、一時期ブームとなった〝都市伝説〟的な要素もふんだんに盛り込み、幅広い読者層を掴むことに成功している。

次の教皇を決めるコンクラーベ当日、バチカン市国内に反キリストの秘密結社イルミナティ反物質による時限爆弾を仕掛ける。さらに有力な教皇4人が誘拐され、1時間毎に殺害されていくことが予告される。メディアによって全世界へと生々しい状況が発信される中、はからずも事態収拾の役目を負った図象学者ラングドンの決死の冒険劇が繰り広げられる。

タイムリミットが生み出す強烈なサスペンス、秘密のベールに包まれたバチカンの内政を惜しみなく描いた大胆な舞台設定、キリスト教信者と科学者の積年の確執を背景にミステリアスで感動的なシーンを表出する見事な筆力。例え「大衆的」であろうとも、幸福な読書体験は何ものにも代え難いことを証明してくれる一冊だ。

評価 ★★★★★

 

天使と悪魔 (上) (角川文庫)

天使と悪魔 (上) (角川文庫)

 

 

 

天使と悪魔 (中) (角川文庫)

天使と悪魔 (中) (角川文庫)

 

 

 

天使と悪魔(下)

天使と悪魔(下)