海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「凍った街」エド・マクベイン

馴染みの刑事部屋に入り、ガサツでありながらも心優しい刑事たちに再会する。スティーブ・キャレラ、マイヤー・マイヤー、バート・クリング、ミスコロ、バーンズ……1956年発表の「警官嫌い」以降、2005年「最後の旋律」まで全56作。マクベインの死によって惜しまれつつ終焉する「87分署シリーズ」は、架空の都市アイソラを舞台に、常に市井の人々に寄り添い、憎むべき犯罪に立ち向かう刑事群像を描き続けてきた。

本作は1983年発表の第36作。貧富の差に関わらず蔓延する麻薬が絡む殺人が発生。凍り付くような寒波の中、捜査を開始したキャレラたちは、辛抱強く関係者に当たり、嘘と真を見極め、矛盾を察知し、事件を再構築し、怪しい者には圧力を掛け、傷ついた者には癒しを与え、一歩一歩事実を探り出し、真相を突き止めていく。

冒頭での売春婦の感動的な出産やキャレラと妻・テディとの心温まるやりとり、クリングの新たな恋愛の幕開けなど、本筋とは直接関係の無いエピソードの数々がこれほど魅力的なシリーズを他に知らない。マクベイン自身の優しさが作品の底流にあるからこそだろう。

評価 ★★★★

 

凍った街 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

凍った街 (ハヤカワ・ミステリ文庫)