海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「カロライナの殺人者」デイヴィッド・スタウト

アメリカの奴隷制存続の是非を問う南北戦争が北軍の勝利によって終結したのは1865年。だが、以降も南部を中心に黒人(無論、先住民やアジア人など含む例外無き有色人種)への差別は色濃く残り、本作品のモチーフとなった事件が起こった1944年も依然として白人以外には人権が認めらていない時代である。後にアフリカ系アメリカ人の「公民権」がようやく制定されたのは1964年。南北戦争は単に奴隷という野蛮な形式を建前としてやめただけで、人種差別は歴然としてまかり通っていた訳である。

本作は、サウス・カロライナ州で実際に起こった事件を基にしており、白人の少女二人を殺害した罪で死刑となった黒人少年の無実を証明すべく、40年を経て近親者が立ち上がる物語。だが、決して良い出来ではなく、葬られた過去を掘り起こし解明するミステリとしての魅力にも乏しい。何より、怒りの度合いが不足しているのである。解説では、北上次郎が情景描写などを褒めているが、読後に印象に残るのはどぎつい電気椅子のシーンのみであり、そもそも牧歌的な田舎の雰囲気を楽しむ主題でもない。

評価 ★★

 

カロライナの殺人者 (ミステリアス・プレス文庫)

カロライナの殺人者 (ミステリアス・プレス文庫)