海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「わが名はレッド」シェイマス・スミス

何とも陰惨なストーリーだ。主人公レッド・ドックはアイルランドの孤児院で育つが、過酷な状況下で双子のショーンは死亡。レッドは二人を無残にも見捨て陥れた者たちに対して報復を誓う。やがて犯罪組織のブレーンにまで上り詰めていくレッド。その間にも着々と復讐劇は進められていた。

史実によれば、1990年代までカトリック教会が運営した孤児院では児童虐待が横行し、強制収容所に近いものであったと巻末でスミスは記している。レッドの計画に組み込まれ犠牲となっていくのは同じ境遇で育った孤児たちなのだが、昏い憤怒に駆り立てられたレッドには自制が効かず、狂気のままに突き進むさまは異様な迫力に満ちる。それは、もう一人の主要人物である連続殺人鬼ピカソの登場によって倍加され、予測できない展開は極限的な緊張感を強いていく。

レッドとピカソという〝狂人〟二人による共鳴と共謀によって、物語は一気に結末へと向かって転がり落ちていくのだが、読了後に去来するのは空虚感であり、勧善懲悪では終わらないしこりを残す。クライム・ノベルの異端として、記憶されるべき作品だろう。

評価 ★★★★☆

 

わが名はレッド (ハヤカワ・ミステリ文庫)

わが名はレッド (ハヤカワ・ミステリ文庫)