海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「レッド・スパロー」ジェイソン・マシューズ

元CIA局員による2013年発表のスパイ小説。〝モグラ狩り〟を主軸にアメリカとロシアで展開する現代の諜報戦を描く。旧ソ連圏の東欧や中東諸国などで情報収集とリクルートに関わったという著者の経験が生かされ、冷戦以後の潜入スパイの様子を知ることが出来る。特に海外支局で活動するケース・オフィサー(現地工作担当官)とエージェント(勧誘されたスパイ)との情報受け渡しは、いまだに密会の場をわざわざ設けていることなどの描写に驚くが、現場の世界とは意外に旧態依然としているのかもしれない。

デビュー作ということもあり、あれもこれもと詰め込み過ぎて中弛みしている。二重スパイのあぶり出しにCIA現地工作員の男と新たなエージェントとなる女の恋愛を絡めて娯楽性を高めているが、登場人物はやや類型的。経歴上致し方ないのだが、アメリカを善、ロシアを悪とする対立の構図は古臭く、さらに俗物的なSVRの主要人物の造型にはマシューズの〝積年の恨み〟のようなものが垣間見えて、逆に微笑ましい。各章の終わりに登場する料理のレシピを載せているのだが、テンポを鈍らせるだけで邪魔である。

スパイ小説は、もっとクールに。

 評価 ★★☆

 

レッド・スパロー (上) (ハヤカワ文庫 NV)

レッド・スパロー (上) (ハヤカワ文庫 NV)

 

 

レッド・スパロー (下) (ハヤカワ文庫 NV)

レッド・スパロー (下) (ハヤカワ文庫 NV)