海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ペット・セマタリー」スティーヴン・キング

読者は、誰もが自問したことだろう。もし、主人公と同じ極限的な悲劇に見舞われ、そこから逃れられるすべがたったひとつ残されているとすれば、それを選択するか否か。例え、倫理観に背こうと、非人間性を咎められようと、或る瞬間を「無かった」ことにする方法があるとしたなら。もしそれが、己の命に代えても惜しくない我が子を、「再び取り戻す」ことが可能であったならば……。スティーヴン・キングは、そのあまりにも残酷で、震えるほどに哀しいカタストロフィーを、類い希なる筆致で描き切っていく。
ホラーの要素が濃い終盤よりも、不慮の事故により息子を失った父親、その妻と娘、義父母ら家族の絆が崩壊していく展開がとにかく読ませる。愛する者の死がもたらすもの。正気を保てるか、狂気の淵へと堕ちるかは、恐らくは紙一重なのであろう。その後に待ち受ける耐え難い喪失感と悔恨が息苦しいまでに伝わってくる。

評価 ★★★★

 

ペット・セマタリー〈上〉 (文春文庫)

ペット・セマタリー〈上〉 (文春文庫)

 

 

 

ペット・セマタリー〈下〉 (文春文庫)

ペット・セマタリー〈下〉 (文春文庫)