海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「死神を葬れ」ジョシュ・バゼル

ニューヨークの病院を舞台に、元マフィアの殺し屋で現・研修医というピーター・ブラウンの多忙な一日を描くクライム・サスペンス。邦題にあるような「死神」が登場する訳ではないが、シニカルな主人公の行動を軽快なタッチで描き、スピード感に溢れる。
交互に挿入される「前日譚」の章では、ブラウンが殺し屋となった事の顛末が明らかにされるのだが、アイデンティティを巡る一種の青春小説としても読める。育ての親となる祖父母をマフィアに虐殺されたブラウンは、敵を討つために別の組織に属して復讐の機会を待つ。その足掛かりとなるのは同組織の幹部を父親に持つ小悪党の旧友なのだが、愛憎渦巻く事態はややこしい結末へと向かって進んでいく。やがて「ユダヤ人」としてホロコーストを生き抜いた祖父母のルーツを探るブラウンは、意外な事実に突き当たる。
殺しの手段にサメを使い、クライマックスでは究極の「武器」も登場、とにかく痛い描写には事欠かない。
評価 ★★★

 

死神を葬れ (新潮文庫)

死神を葬れ (新潮文庫)