海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ファイナル・ターゲット」トム・ウッド

白熱したアクションの連続でスパイ/冒険小説ファンを熱狂させた「パーフェクト・ハンター」に続く暗殺者ヴィクターシリーズ第2弾。目紛るしい活劇を終始展開した前作より、ややテンションは抑え気味だが、その分プロットを充実させている。といっても臨場感溢れる戦闘シーンは流石で、緩急をつけて繰り広げるダイナミックな闘いはシリーズ一番の魅力であり、非情な暗殺者の世界を描くことにおいては他の追随を許さない。

裏社会で巨大な権力を牛耳る国際的武器商人らの弱体化を謀るCIA幹部が、抗争の火種となる暗殺をヴィクターに依頼する。拮抗する勢力同士に潰し合いをさせることで非合法の武器市場を矮小化する狙いだが、当然のことバランスを崩し亀裂の入った武器ディーラーらは血で血を洗う報復合戦に突入。ヴィクターは「…ハンター」で作ったCIAへの〝借り〟を返すために暗殺をこなしていくのだが、敵は全て殺しのプロ集団であり予測不能な状況下での実行は困難を極める。さらに依頼主は一枚岩ではなく、「味方」陣営の裏切りによって退路を断たれたヴィクターは、孤立無援の戦いの中で次第に消耗していく。


研ぎ澄まされた高密度の闘いを描写するウッドの筆致は益々冴えている。本作ではヴィクター自身のロマンスも排し、あくまでも自らのルールに従って「仕事」を全うしようとする暗殺者のストイシズムを深化させている。ラストシーンでのヴィクターは、まさに〝ぼろぼろ〟になるまで憔悴し切っており、続編が気になるところだが、第3作はいつ出版されるのだろうか。このシリーズ、本国では既に第5作まで発表されている。早川書房よ、「グレイマン」ばかりに力を入れるのはやめて、早く続編を出して欲しい。

 

評価 ★★★★

 

 

ファイナル・ターゲット (上) (ハヤカワ文庫 NV)

ファイナル・ターゲット (上) (ハヤカワ文庫 NV)

 

 

 

ファイナル・ターゲット (下) (ハヤカワ文庫 NV)

ファイナル・ターゲット (下) (ハヤカワ文庫 NV)