海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ヘルバウンド・ハート」クライブ・バーカー

80年代後半から「モダンホラー」ブームが席巻していた頃、クーンツやマキャモンと並んで一躍時代の寵児となったのが英国の作家クライブ・バーカーだった。中でもデビュー作となる「血の本シリーズ」は、スプラッター映画の影響が顕著な残虐描写を大胆に盛り込み、強烈なインパクトを与えて話題となった。その後は、自ら映画業界に乗り込みつつ、ファンタジー色の濃い長編を次々と発表していたが、ブームの終焉とともにバーカーの名を聞くことも少なくなっている。


本書は、新鋭として脚光を浴びていた1986年発表の長編第1作となり、「血の本」で展開した幻想と狂気のエッセンスを凝縮している。究極の快楽を求める男が、この世と〝異界〟を繋ぐ「魔道士」を呼び出すことに成功するが、享受するはずだった快楽とは即ち地獄の苦痛を永劫に味わうことだった。男は儀式を執行した家に引っ越してきた弟夫婦を利用して蘇生を謀るべく、肉体を取り戻すための生け贄狩りを始める。
設定自体は取り立てて新しいものではなく、俗物の登場人物らも類型的。恐怖/絶望感よりも忌避/退廃感が勝るモダンホラーの典型のような作品だ。ただ、バーカーの創作する喜びといったものが随所に散見でき、勢いのまま一気に読了できる。
評価 ★★☆

 

ヘルバウンド・ハート (集英社文庫)

ヘルバウンド・ハート (集英社文庫)