海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ブリザードの死闘」ボブ・ラングレー

粗削りながら良くも悪くもラングレーならではの魅力に満ち溢れる1988年発表作。イングランドとアルゼンチンのフォークランド紛争(1982年)に端を発する確執を背景に、真冬のスコットランド沿岸部で密命を帯びたアルゼンチン特殊工作班の任務遂行を描く。

紛争終結から数年後、軍事演習中のイングランド原子力潜水艦への攻撃を目論むアルゼンチン軍高官らは、破壊工作に長けた元軍人五人を呼び寄せる。訓練中に二人が脱落するも、残り三人は極寒の北地へと潜入。復讐に燃える者、報酬目当ての者など動機はさまざまで、所詮は寄せ集めに過ぎない男たちは時に反目しあいながらも、スコットランド独立を目指す現地テロリストグループの協力を得て、その機会を待つ。ブリザード吹き荒れる夜、遂に原潜撃沈作戦は決行される。だが、歯車は既に狂い始めていた。

冒険小説に懸けるラングレーの意気込みがひしひしと伝わってくる。平穏な生活を捨ててまで生命を懸けた冒険行へと男たちを駆り立てるものとは、チームの主力である一人が語る〝マチスモ(男らしさ)〟であり、不可能への挑戦であることを、多様なエピソードを重ねて物語っていく。無謀な謀略の末端で理不尽にも死にゆく工作員らが、その最期を迎える直前に行きずりの女との愛を確かめ合うという甘美な設定も、臆することなく堂々と謳い上げて潔い。

本作の白眉は、名作「北壁の死闘」を彷彿とさせる終盤の登攀シーンだ。ブリザードが吹き荒れる氷山での逃亡。専用の道具が無い状況下でクライマーの経験と技術、勘のみが頼りとなるロッククライミングは、迫力と緊張感に満ち、ラングレーの本領発揮といったところだ。

冒険小説への愛に溢れている。

評価 ★★★☆

 

ブリザードの死闘 (新潮文庫)

ブリザードの死闘 (新潮文庫)