海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「フランクリンを盗め」フランク・フロスト

何度か挫折しかけ、途中で放り出すつもりだった。冒頭から既に破綻しかけている物語が、絶望的につまらないからだ。だが、駄作であれば何が駄目なのか、それを明確にするつもりで我慢して読み進める。終盤まで辿り着いたところで、ようやく合点がいく。この妙な〝ブンガクもどき〟の小説は、つまりは何らかのパロディ、もしくはコメディだったのだと。

 一応、犯罪小説のスタイルはとっているが、大半のエピソードは本筋と何の関係も無く挿入され、全体の構成とトーンをぶち壊していく。しかも長い。著者は、大学でギリシャ史と考古学を教えていた経歴の持ち主らしいが、ただでさえ遅いテンポを更に悪化させてまで、己の博学を大量に捻り込んで披露し、ページ数を無駄に消費する。だが、有難い教養に興味の無い読者にとっては苦行でしかないのである。

 プロット自体もありふれたものなのだが、大半がギリシャを舞台にしていることについては新鮮味がある。悪友と共謀してギャングから金と債券を盗んだギリシャ系アメリカ人の主人公が、仲間の裏切りに合い別の罪で服役する。出所後は自らのルーツとなるギリシャへと逃亡。地元の人々とのんびりと交流を楽しみ、レストランを手伝い、農作業に勤しむ。延々と続く中弛み。というよりも、冒頭からラストまで、盛り上がるシーンが皆無という物凄い作品で、よく翻訳されたものだと感心する。ディテールは細かいが、どうでもいい情報を書き連ねるだけで、伏線として生かされることもない。中盤に至り、主人公の追っ手だという訳のわからない殺し屋集団が出てくるのだが、史上最強ともいうべき間抜けぶりを曝して自滅していく。

結末では、何やら波乱万丈の経験をしたらしく悦に浸る主人公が「これから先どうしよう」と呑気にも思いを馳せるのだが、失笑せざるを得ない。ジェイムズ・カルロス・ブレイクの傑作群を手掛けた翻訳者だけに期待していたのだが、あとがきで大絶賛しているポイントが私の捉え方と真逆であることに驚く。至極最もなことを書き綴ってはいるのだが、本作に何一つ効果を生んでいないことは断言できる。

評価 ☆

 

フランクリンを盗め (ハヤカワ・ミステリ文庫)

フランクリンを盗め (ハヤカワ・ミステリ文庫)