海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「Mr.クイン」シェイマス・スミス

第ニ作「わが名はレッド」もかなり強烈な内容だったが、シェイマスのデビュー作は過激さにおいて飛び抜けている。犯罪プランナーという一応の肩書が付いてはいるが、無辜のターゲットに対する主人公クインの非道ぶりは異常者と大差無く、己の悪魔的頭脳を駆使した完全犯罪を成立させることに生き甲斐を感じる屑のような男だ。その歪み切った人格となるまでの生い立ちは僅かに触れられるだけで、物語のメインとなるのは、裕福な一家惨殺による全財産強奪である。

長年にわたり犯罪計画のブレーンとして〝麻薬王〟と組むクインにとって最大のリスクとなるのは、正義感に溢れる新聞記者の義姉だった。新たな〝仕事〟に狡猾な知恵を働かせる一方で、妻との離婚問題に尻込むという矛盾した一面を持ち、その私生活の乱れが義姉と接触する機会を増やし、危機的状況へと追い込まれていく。遂には妻が雇った探偵など第三者の介入によって私生活を覗かれ、影の犯罪立案者としての存在が暴かれる寸前となり、進行中の完全犯罪が綻びる予兆を示す。

通常のパターンでいえば、そこから先は主人公が自滅するまでの道程を描くところだが、本作は違う。例え近親者であろうと、計画の妨げとなる人間に対して容赦なく暴力を行使し、死体の山を築く。そこに罪悪感の吐露は一切無い。犯罪小説としての完成度は高くとも、後味は悪い。

評価 ★★★

 

Mr.クイン (ミステリアス・プレス文庫)

Mr.クイン (ミステリアス・プレス文庫)