海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ウッドストック行最終バス」コリン・デクスター

幅広いミステリのジャンルの中でも「本格」と呼ばれる分野に、それ程の興味は無い。といっても、私がミステリ愛好家となったきっかけは、多分に漏れずエラリイ・クイーン「Yの悲劇」の絢爛たるロジックの世界に文字通り感動したからなのだが。要は物語としての強度があるか否かだ。驚天動地のトリックや〝どんでん返し〟が幾ら仕掛けられていようと、納得できるストーリー展開や登場人物、文章に魅力がなければ、「本格」についてはシノプシスを知るだけで事足りる。

本作は、シリーズとしては既に完結しているモース主任警部登場の第1作。殺人事件自体はいたってシンプルなものだが、モースがさまざまな仮説を立てながら、中途で明かとなる新事実に基づいて再構築していくアクロバティックな謎解きが一番の読みどころなのだろう。探偵自体がミスディレクションの役割を担っているため、当人に興味のない証拠類は読者に提示されない。現場検証もおざなりで、部下に対するモースの指示も真意を隠す場合が多い。後に伏線と分かるが、事件関係者である女に一目惚れし、何故か成就しかけるというサイドストーリーも挿入する。
モースの個性は、いかにも「本格派」の探偵役にいそうなタイプで新鮮味は無い。肝心の推理については、終盤の〝どんでん返し〟直前までは面白い。真犯人の動機が理解できない私には、デクスターはきっと「高尚」過ぎるのだろう。
評価 ★★★

 

ウッドストック行最終バス (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ウッドストック行最終バス (ハヤカワ・ミステリ文庫)