海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「別れのキス」ジョン・ラッツ

1988年発表の私立探偵フレッド・カーヴァーシリーズ第三作、PWA最優秀長編賞受賞。カーヴァーは元警官で、足に銃弾を受けたのち、常に杖が手放せない障害者となっている。いわゆる〝ネオハードボイルド〟では、さまざまな障害やトラウマを持つ主人公が登場したが、殆どはオリジナリティを際立たせるためで、本筋に関わる部分は少ない印象を持っている。だがカーヴァーの場合は、そのハンディキャップが致命傷となるエピソードが多く、少しくどさを感じた。ラッツとしては停滞する私立探偵小説に新機軸を打ち出したかったのだろうが、反面テンポが阻害されている。
元同僚の依頼で不審死の続く老人ホームの実態を探るプロットは、シンプルな構成でまとめている。老いてもなお肉欲に溺れる者らがあらぬ報いを受けるという醒めた視点は光るが、登場する犯罪者がどうしようもなく間抜けなのはいただけない。
評価 ★★☆

 

別れのキス (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

別れのキス (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)