海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ブラック・サンデー」トマス・ハリス

トマス・ハリス1975年デビュー作。以降は長期的にヒットしたサイコ・サスペンスのみ散発的に発表しているが、確実に売上の見込める〝ハンニバル・シリーズ〟に固執していることに拝金主義を感じてしまう。少なくとも「ブラック・サンデー」には、エンターテイメント小説に懸けるハリスの意気込みが溢れている。元ジャーナリストならではの綿密な取材を基に、新たなテロリズムの到来を予見したドキュメントタッチの構成は、濃密な国際スリラーとして仕上がっており、今でも充分に読み応えがある秀作だ。
米国開催の「スーパー・ボウル」の競技場に、爆弾を積み込んだ飛行船で突っ込むテロ計画。観客は8万人、大統領も観戦予定であり、成功すれば壊滅的な打撃を与えることができる。その立案者とは、ベトナム戦争で精神と肉体を病み、母国政府への復讐を誓うアメリカ人の飛行船パイロット。男はパレスチナ・ゲリラを巻き込んで、準備段階へと移るが、一方でイスラエル諜報機関モサドがテロリストの不穏な動きを察知し、特殊部隊の精鋭を送り込む。
トマス・ハリスの筆致は硬質で重厚。特に、主犯となる飛行船パイロットがベトナムの戦場で体験した地獄の如き有り様には、後の作品に繋がる「狂気」を読み解くことができる。
評価 ★★★☆

 

ブラックサンデー (新潮文庫)

ブラックサンデー (新潮文庫)