海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「砂漠のサバイバル・ゲーム」ブライアン・ガーフィールド

才人ブライアン・ガーフィールドの1979年発表作。アリゾナの砂漠に、全裸で放り出された男女四人によるサバイバルを描く。その過酷な状況を招いた要因とは、殺人の罪に問われたネイティブアメリカンの男を、精神科の専門医四人の鑑定/証言によって精神病院送りにしたことによる。つまり逆恨みな訳だが、精神を病んだ男は地獄の苦しみを与えるために 、四人を拉致し、夜の砂漠地帯に放置する。着る物も、食料も、水も無く、太陽が昇れば灼熱の地獄が待ち受ける。一人は足の骨折のために、移動することも出来ない。もうすぐ、朝がくる。ネイティブとの混血である男の一人が言う。まずは、一人ひとりが日中の陽を避けることのできる穴を掘れと。
極限状態で、如何に生還を果たすか。ガーフィールドの筆致は坦々としている分、かえってリアルだ。読み手もまた登場人物らの飢渇と焦燥感を共有するのだが、絶望する一歩手前で踏み留まり、ありったけの知恵を絞って境地を脱しようとする人間の底力/生存本能が見事に描かれている。無論、凡庸な人間では半日すらもたないことも思い知らされる。
全体のトーンはポジティブで悲惨な描写も無い。恐らくガーフィールドは人間愛に満ちた好漢なのだろう。
評価 ★★★