海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「テロリストの荒野」ジェラルド・シーモア

シーモア1985年発表の第8作で、北アイルランドを舞台にテロリストの苦悩を描く。

一線から退いていたIRA暫定派の工作員マクナリーは、上層部の命令によりベルファストでテロを実行し、英国の判事らを殺害する。治安部隊によって間もなく逮捕されるが、まだ若くして妻子を残したままに終身刑となるのを恐れ、釈放/身の安全と引き替えにIRA幹部らの名を明かすことを決意。だが、密告者の汚名を着せられた夫を忌み嫌う妻は、マクナリーの思いを踏みにじり、子どもらを連れて離別する。英国政府は、テロ実行前後にマクナリーと懇意となったフェリス中尉を派遣し、精神的に追い詰められていくマクナリーを法廷で証言させるために鼓舞する。一方、壊滅的な打撃を被ったIRA暫定派の残党は、裏切り者を抹殺するための謀略を張り巡らす。

 日本版タイトルからはアクション主体の展開を想起させるが、「テロリストの荒野」とは己の信条を捨て去り、裏切り者として生きていかざるを得ないマクナリーの荒涼たる心情を表す。以前は敵であった政府の庇護を受けつつも、元の仲間らに生命を狙われるテロリストの男は、非常に女々しく脆いのだが、その不安定な精神状態を支えようとする英国軍人の凛々しさを対照的に配置することで、物語に厚みをもたらしている。ただ、中弛みは避けようが無く、緊張感が持続しない。

評価 ★★☆